保健室へ向かう廊下で、五十嵐は子供のことに流行った話や、今自分が興味を持っている話など、キョーコを飽きさせることなく話題をころころと変えていた。



キョーコの子供のころは、ショータローがすべてで、それ以外はあまり考えていなかった。クラスの女子、学校中の女子にいじめられても、ショータローさえいてくれれば、すべてを乗り越えることができた。



ずっとそんな生活でも良かった。

いつまでもその生活が続くと思っていた。



だが、その想いも消し去られた今、キョーコは同級生との時間を作り、学校の話や、友達とカラオケ行ったり、メールしたり、学生らしい遊びをしたいと思ったことも何度かあった。

BOX-Rの撮影が進むにつれて、キョーコはその想いを強くしていた。

まさにそこに五十嵐が現れ、キョーコは少し浮かれていた。






「でね・・キョーコちゃん・・こういう遊びとかやらなかった?」

そう言って五十嵐は手の前でクロスをして鼻をつまむと腕をくるっとまわし、その手を解いた。簡単そうだな・・。と思ってキョーコがやってみると・・クロスした手は解くことができず、絡まったままだった。




「す、すごい!!・・どうやるの?」

キョーコは興味津々でそう尋ねると、五十嵐は嬉しそうに答えた。




「内緒だよ!・・少し考えてみて?・・答えは今度教えてあげるから!」

そう言って五十嵐は何気なくキョーコと次に会えるように約束をした。

キョーコは何度か挑戦したが、クロスした手は一向にほどける気配がなく、隣で五十嵐はクスクスと笑っていた。




「ねぇ~キョーコちゃんて・・えぇ~っとなんだっけ・・・Box-Rのナツに雰囲気が似ているよね?・・俺、すごいファンなんだ!・・まだ、それほど有名な人じゃないみたいで、調べてみようと思ったんだけど・・キョーコちゃん知ってる?」

そう言われてキョーコはほのかに頬を染め、恥ずかしそうに視線をふせた。




「えぇ~っと、その・・・ごめんなさい・・私がナツなんです・・・。」



「えぇえええええ!!」

そう言って五十嵐はキョーコをじろじろ見て、絶句した。




「ぅうそ!!・・本当に!!!ごめんちょっと握手してもらってもいいかな?」

五十嵐は慌てて制服のズボンで手をこすり、手を差し出した。




「これからも、よろしくね?キョーコちゃん・・。」



「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします。」

小首を傾げてキョーコは恥ずかしそうに微笑むと、ちょうど保健室の扉の前に到着した。



そして、五十嵐はキョーコを見つめ頬を染めていた。