「つ、敦賀さん・・その・・何か怒っていらっしゃいますか?」
キョーコは敏感に蓮の心の変化を読み取り、申し訳なさそうに質問をした。
キョーコのその発言に社はチラッと蓮に視線を向け、そしてキョーコに視線を戻す。

この微妙な蓮の変化によく気が付くよな・・などと社は感心していた。


「いや、怒ってないよ?・・ただ、さっきも言った通り・・気を付けないとね・・。」


「はい・・そうですね。」
しゅんとしたキョーコの表情はとても寂しそうで、蓮の心に小さな針が刺さったような痛みがはしった。


「事務所・・・行くけど・・一緒に行く?」
優しく蓮がそう言うと、キョーコは少し下を向いたまま小さく横に首を振った。


「いえ、これから家に帰るので・・・大丈夫です。・・そのいつもお気遣いありがとうございます。」
そう言ってキョーコは、腕時計に視線を向けると社の方に向き直った。


「あの・・社さん・・・会社の携帯じゃない方の・・・携帯の番号は・・その・・・」
そう言ってキョーコが黙ると社は瞳を大きく見開いた、その先が意味することを理解したからだった。


「さっきの彼に教えてもいいかってこと?」


「あ、はい・・せっかくできた友達なので・・仲良くなりたいと思ったんですが・・。」


明らかに五十嵐はキョーコに興味があり、もちろん恋愛感情としてキョーコを見ている。
そんな奴に携帯の番号なんて教えたらきっと毎日のように連絡が・・・。

そう思って社は答えを渋ると、斜め後ろから邪悪な気配を感じた。


「最上さん・・私用の携帯電話・・持っていたんだ・・。」


「え?あ・・はい・・・つい先日琴南さんと一緒に買い物に行ったときに購入しました。」
蓮の背後にある邪悪なオーラに気が付きキョーコは少しだけ怯んだ。


「あ・・あの・・・ひとまず今日は・・・帰りますので・・その、色々ご迷惑をおかけしてすみませんでした。携帯のことも自分で考えますから・・それでは、失礼します。」
そう言って足早にキョーコはその場所を離れていった。




「蓮・・・気持ちはわかるけど・・そんな表情に出したら、キョーコちゃんが怖がって逃げていくぞ?」


「・・・そうですね。・・気を付けます・・。」


とはいえ、その場に残された蓮の表情は不安そうだった。