2月からずっと見よう見ようと思っていたものの、レンタルショップのカードのない私はついついタイミングを逃していました。と、そんな話をしていたら、ある晩、翌日に朝まで飲みに行くという予定を控えた彼が、TUTAYA の小さな袋を提げて帰宅しました、「明日、一人で見るかなと思って」。

彼がいない家で、夜、一人ゆっくりと映画を見る。
いい時間でした。

ナタリー・ポートマン/パリ、ジュテーム プレミアム・エディション

¥4,935

18本のストーリーが納められた短編オムニバス作品。
それぞれ異なる18人によって監督されているので、パリの街の風景に、変化に富んだ上質なドラマが挿話的に折り込まれ、そのそれぞれが互いにどこかで重なり合っている、そんなイメージです。

各ストーリーの順序がどのように決められたのかわかりませんが、とてもリズミカルで魅力的な配置でした。
冒頭を飾るブリュノ・ポダリデス監督作の 「モンマルトル」。停められるスペースを求めてクルクルと車を回し続ける様、 "バンパーは消耗品" を憚らず体現する振る舞い、そんな日常のひとコマに感じる可笑しさに懐かしさも混ざり合い、始まるとともに一気に引きこまれつつ・・・ も同時に力が抜けて、何とも心地良い滑り出しでした。
そこからテンポ良く次々と流れるストーリー・・・

ガス・ヴァン・サントが監督作の 「マレ地区」は、何となく気持ちが悪い上に最後の疾走もいまいちよくわかりませんでしたが、マリアンヌ・フェイスフルの、オーラを完全に消した存在感としゃがれた声がやたら印象的でした。
ジョエル&イーサン・コーエン監督作「チュイルリー 」は、鑑賞に "痛み" を伴うけれど スティーヴ・ブシェミの一途な "愛" が悲しくも微笑ましく、諏訪敦彦監督作「ヴィクトワール広場」 では、 ひたすら苦しく悲しいなかで 低い声を響かせるウィレム・デフォーの存在感と安定感に、なにか救いのようなものが感じられました。

フレデリック・オービュルタン監督作「カルチェラタン」では、ジェラール・ドパルデューの上手さと、そして何よりジーナ・ローランズの深み、見る者を釘付けにする "リアリティ" が秀逸でした。
何だか、見てはならない窓の向こうの様子を、自分がほんとうに覗き見てしまったかのようでした。
夜、黄色い明りが灯る16区の家々の窓。
ブラインドを下ろされるわけでも、カーテンを引かれるわけでもない窓。
舞台装置のように照らし出された高い天井や書棚の様子が四角く、まるで切り取ったかのように美しく浮かび上がり、あのような部屋で一体どんな時間が流れていることだろうかと不思議な感慨をもたらしました。
そのなかのある一枚の窓の、その奥に広がる世界をこっそりと見てしまったような、そんな気持ちになりました。

他にも印象深い作品はいくつもありましたが、ますます長くなるのでそれは割愛するとして。
とにかく贅沢な映画でした。
DVD 、買います。
その DVD には公開作品には納められなかった二つのエピソードの他、216分もの特典映像が付いているそうで。ますます楽しみです☆