ある朝、マミジロウは息子の通学カバンに馬乗りになり、鼻水を撒き散らしながら遊んでいた。
それは見慣れた光景で、私はさして気にも留めず、その後息子を送り出す。
「お兄ちゃ~ん、いってらっしゃ~い」
マミジロウを抱っこして、その短い前脚をブンブン振らせる。
息子はマミジロウを一撫ぜし、玄関ドアを閉める。
それも朝のお約束。
けれど、その日はいつもと違った。
息子が出て行ったドアをじっと見つめるマミジロウ。
「マミジロウ?ご飯だよ?マミジロウ?」
いくら呼びかけても、銅像みたいに動かない。
ただひたすら、ドアを見つめている。
「マミはほんと、お兄ちゃんが大好きだねぇ」
マミジロウを家族に迎え入れる際、ある程度大きくなるまでは毎日面会に通っていた。ただ、中学生の息子だけは中間考査直前ということで最後まで行けず。
ならばと毎日息子の使用済みタオルと靴下をマミジロウに臭わせることにし、マミジロウもクンクンと懸命に、靴下のニオイを嗅いでいた。男子校に通う息子の靴下は、プンと酸っぱいニオイがした。
一週間後、いざ息子に初対面となった瞬間、マミジロウは息子が一歩近付いただけでその場にひっくり返って大喜び。以来、息子にべったりとなる。
例えば、
息子が寝ていると、その寝顔を見つめる。
母親の私より、見つめてる。
息子がシャワーを浴びている最中は、廊下で尻尾を振りながら、まだかまだかと待ってる。
飲食店に入っても、息子に寄り添うように座っている。
一度、息子が泣いた時なんて、滅多なことでは鳴かないマミジロウが「クゥンクゥン」と悲しそうに、本当に悲しそうに声を搾り出すように、泣いた。
「本当にお兄ちゃんが大好きだねぇ」
玄関前に座ったまま、動かないマミジロウに微笑ましく思いながら後片付けをしていると、携帯電話に息子より着信が。
「何事か?」とドキリとしつつ、電話に出ると、
「マミのオモチャが、オレのカバンの中に入ってるんですけどwwwwwwwドュフフwwwワロスwwwベトベトなんですけどwww」
は!?
ちょ、待て!
あ!
マミの!
一番お気に入りの!
オモチャがない!
慌てて玄関のマミを見に行くと、
こんな顔して、まだ玄関を見ていた。
も、もしや、マミジロウよ、お前…、
お兄ちゃんのカバンにオモチャを入れる!
→ボクもお兄ちゃんと学校に行ける!
→お兄ちゃんとずっと一緒だよ!
そう思ってた??もしかして思ってた??思ってたでしょー!?
と言うのも、
そのオモチャとは、マミジロウが咥えて息子の元へ行くと、
息子は勉強やゲームの手を止め遊んでくれるという、
マミジロウにとり魔法のオモチャなのだ。
「お兄ちゃんいなくなる…、
ボクの一番お気に入りのオモチャを持ったまま…」
表現し難い絶望に満ちた情けない表情のマミジロウに、朝から笑いが止まらなかったけれど、あまりに可哀想なので、特別に大好物の鶏レバーをあげてみた。
すると、全てを忘れたかのようにケロっとし、
尻尾を振ってご機嫌に一人遊びを始めた。
その天真爛漫っぷりに、また笑いが止まらなくなったのは言うまでもない。
ペキニーズのいる日常は、笑顔と幸せで溢れてる。
(マミジロウ、駅までお兄ちゃんをお迎え)
こんにちは。
マミジロウです。
ボクがウトウトすると、
ママったら「麗子像だー」「グレムリンだー」ってクスクス笑うんです。
失礼しちゃうー。