手の温もりってすごいと思うんです。

ただそれで、そっと触れるだけで、

ただそれに、そっと触れるだけで、

どれだけの想いや願い、祈り

…勇気や愛や力…が心に注がれて行くでしょうか？

命の時間を何となくしらされて、お父さんの辛そうな顔を見て、

少しでも痛みを和らげてあげたいって、私のお友達は

お父さん生背中をさすっていたんだけど…

しんどかった気持ちが、そうしていたら楽になっていったんだって。

お父さんの愛情が、伝わってきた。

どんな姿になっても、生きる道を示してくれる。

そんな彼女の手を包んであげたくなるけど、離れているからできなくて。

せめて、自分が感動したこと、心に残ったこと、嬉しかった事とかを

彼女に話して伝える。

手の温もりの代わりになりますようにって想いを込めて。

だから、自然と、磁石のように引き寄せられて、

そんな手と手が繋がる時って、…そうなんだ。

“　生きているということ

　・・・

　・・・

　あなたと手をつなぐこと

　・・・

　・・・

　あなたの手のぬくみ

　いのちということ”

からだのすべてに広がって行く温もりは、

駆け巡って行く、強く静かな鼓動は、

繋いだ手から行き来して、知らないうちにすぅっと馴染んでいく。

いのちの源は、時計の秒針の刻む、かすかな音のように

確かにあるのだけど、誰にも気付かれず、そうやって心にやって来る。

小さいけれど、確かなもの。

手のぬくみには、それがあるんだね。

『生きる』　谷川 俊太郎

生きているということ

いま生きているということ

それはのどがかわくということ

木漏れ日がまぶしいということ

ふっと或るメロディを思い出すということ

くしゃみをすること

あなたと手をつなぐこと

生きているということ

いま生きているということ

それはミニスカート

それはプラネタリウム

それはヨハン・シュトラウス

それはピカソ

それはアルプス

すべての美しいものに出会うということ

そして

かくされた悪を注意深くこばむこと

生きているということ

いま生きているということ

泣けるということ

笑えるということ

怒れるということ

自由ということ

生きているということ

いま生きているということ

いま遠くで犬が吠えるということ

いま地球が廻っているということ

いまどこかで産声があがるということ

いまどこかで兵士が傷つくということ

いまぶらんこがゆれているということ

いまいまがすぎてゆくこと

生きているということ

いま生きてるということ

鳥ははばたくということ

海はとどろくということ

かたつむりははうということ

人は愛するということ

あなたの手のぬくみ

いのちということ