Q&A55の補足 アスピリンどうしたらよい? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 繋留流産と化学流産を繰り返した後に、約2年前に抗リン脂質抗体による不育症と診断され、高温期のアスピリン服用を始めましたが、服用を始めて以降、全く妊娠しなくなりました。一年半前から体外受精も行っており、胚盤胞を5回移植しましたが、着床すらしません。
内膜が厚くならない体質なので、血流改善になるという考えで、凍結胚移植の周期に排卵前の時期からアスピリンを服用していました。よかれと思っていましたが、かえって着床を阻害する行為だったのでしょうか。

A 2013.8.27「Q&A55 第Ⅻ因子低下 プロテインC活性低下」では、多少誤解を招く表現をしてしまいましたが、、、不育症の方は、それまでずっと妊娠をしていたわけです。そのような方が、急に妊娠しなくなって(不妊症)しまうということは、着床を妨害したかもしれないという考えを惹起させます。バイアスピリンやアスピリンが、子宮内膜のCOX2を本当に阻害するのか「確かな根拠はありません」が、そのような場合には一度、服用について考えてみる必要があるかもしれないというお話です。

COXには、COX1、COX2、COX3があり、身体の様々な臓器に存在していますが、臓器によりその比率が異なっています。また、血管と血小板だけみても、アスピリンの量によって血栓形成促進に働いたり抑制に働いたりします。子宮内膜のCOXの比率やアスピリンの作用の仕方がどのようになっているのかについては、現段階では不明な部分が大きいと思います。実際の臨床の場では、多くの方がバイアスピリンを内服して、体外受精や凍結融解胚移植を行い妊娠しています。つまり、多くの方はバイアスピリンによる恩恵を受けています。一方で、そうでない方もいらっしゃるかもしれないという考えを持つことが大切なのだと考えています。私自身も、体外受精や凍結融解胚移植では、バイアスピリンを用いることをスタンダードな方法として実施しています。ただ、それにあまりにも固執すると、うまくいかない方が出てくる可能性があると考えています。人間の身体はコンピュータのように全て計算できるものではありません。例外や特別な場合が必ずあります。要は、そのような状況に対処できる柔らかい頭を持てるかどうかにかかっていると思います。COXについては、機会を改めてブログの記事で詳しく紹介したいと思います。