有機溶剤の影響 その1 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

有機溶剤(溶媒)は塗料、洗浄剤、凍結防止剤、接着剤などに含まれている、いわゆるシンナーの臭いのするものです。女性には無縁と思われがちですが、ネイルや除光液にも含まれています。下記の論文は、職業柄有機溶剤に暴露している妊娠中の女性では、胎児奇形率と流産率が増加することを示したものです。 

JAMA 1999; 281: 1106
要約:職業柄有機溶剤に暴露している125名の妊婦を妊娠初期から前方視的に追跡調査しました。コントロールとして年齢、妊娠歴、喫煙暦、飲酒歴が同一な妊婦を選び追跡調査しました。職業柄有機溶剤に暴露している妊婦では胎児奇形率が有意に増加しました(相対危険度13倍)。胎児奇形は暴露症状(頭痛、目の痛み、呼吸器症状、呼吸困難など)のない方では皆無でしたが、暴露症状のある方の16%に胎児奇形が認められました。また、職業柄有機溶剤に暴露している女性は、それ以前の妊娠での流産率が有意に高くなっていました(46.2% vs. 19.2%)。

解説:著者のグループは本論文以前にメタアナリシス(過去に行われた複数の研究結果を分析する統計学的手法)によって、有機溶剤が胎児奇形と流産のリスク因子であることを報告しています(1998)。本論文は、有機溶剤に関する初めての前方視的なコホート研究であり、より信憑性が高いデータと考えられます。有機溶剤を取り扱う職業は、塗装業、インク関連、大工、化粧品関連、芸術家、研究者(学生)、化学者、獣医、洗車業、機能訓練士、葬儀埋葬業など多岐に渡っています。有機溶剤は吸入により吸収され、胎盤を通過し、胎児に移行します。これらの職種の方では、妊娠中の有機溶剤への暴露を最小限にする配慮(ドラフトチャンバー、換気など)が必要です。有機溶剤中毒予防規則という法律もあり半年毎の健康診断が義務づけられています。