有機溶剤の影響 その2 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

油、樹脂、ゴム、塗料など水に溶けないものを溶かす有機化合物を有機溶剤と言います。現在、500種類ほどが使われており、身近なものでは、石油、灯油、シンナー、接着剤などが有機溶剤です。揮発性があり、急性中毒や慢性中毒を引き起こします。下記の論文は、有機溶剤を取り扱う女性研究者での妊娠率低下を示したものです。特にアセトンを扱う方に顕著でした。実験の際にはきちんと防護体制を取って欲しいと思います。

Occup Environ Med 2001; 58: 225
要約:妊娠を目指して妊娠が成立した697名の女性研究者を後方視的に検討しました。のべ735妊娠のうち、有機溶剤を扱っていた411妊娠を、有機溶剤を扱っていない324妊娠と比較しました。妊娠までに要した期間は、前者で平均4.4ヶ月、後者で3.5ヶ月であり、妊娠率は有機溶剤を扱っていた群で0.79倍と有意に低下していました。特にアセトンを扱っていた方の妊娠率は0.72倍でした。

解説:本論文では、妊娠までに要した期間(time to pregnancy, TTP)を指標に集計しています。一般集団での妊娠率を後方視的に検討する際にしばしば使われます。動物では、有機溶剤による催奇形性や神経行動異常、流産率増加が報告されています。ヒトではトルエン暴露と妊娠率低下の関連も報告されています。