有機溶剤の影響 その3 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

職業上様々な化学物質への暴露が存在します。下記の論文は、職業上の暴露によるリスク因子を調査したところ、有機溶剤(とくにグリコールエーテル)に暴露している男性の運動精子数が低下することを示したものです。グリコールエーテル取扱いは、男性不妊のリスク因子として考慮されるべきものと考えます。

Occup Environ Med 2008; 65: 708
要約:英国の生殖クリニックを訪れた2118名の男性の中で、運動精子数が1200万未満の方は41.3%でした。職業、精巣の手術既往、過去の妊娠歴、ボクサー型下着着用、アルコール摂取、肉体労働の有無などが問診され、集計したところ、有機溶剤(とくにグリコールエーテル)を取り扱っている男性では運動精子数減少の頻度が高くなっていました。修正オッズ比は、中等度および高度のグリコールエーテル暴露によりそれぞれ、1.46倍、2.25倍でした。職業上の暴露によるリスク因子は他には認められませんでした。

解説:グリコールエーテルは有機溶剤の一種で、エチレングリコール系とプロピレングリコール系があります。これらは無色で臭いも少ない溶剤です。グリコールエーテルは、塗料、インキ、染料、化粧品、写真複写液、洗浄剤、クリーニング、電解液、オイル、作動油、ブレーキ液、冷媒、凍結防止剤等に使用されています。1970年代より動物で生殖毒性が指摘され、1980年代にはヒトでも生殖毒性(流産、奇形、精巣毒性)が報告されています。1990年代にはEUの一部の国で規制が行われましたが、代替品があるにもかかわらずグリコールエーテルはいまだに世界中で広く使用されています(Ann N Y Acad Sci 2006;1076:784)。