ICMART最新レポート | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

ICMART(国際ART監視機関)では、各国の体外受精の成績を国際比較したレポートを毎年報告しています。本論文はその最新レポートです。

Hum Reprod 2013; 28: 1375
要約: 52カ国から2184カ所の不妊クリニックの2004年の体外受精のデータを集計しました。954,743周期の採卵新鮮胚移植+凍結融解胚移植から237,809人の赤ちゃんが誕生しました。前年比2.3%増加しました。100万人あたりの実施件数は14件(エクアドル)~3844件(イスラエル)と国による違いが大きくありました。100件以下のクリニックが37.2%、500件以上のクリニックが19.9%でした。採卵のうち顕微授精が60.6%、移植のうち凍結融解胚移植が31%でした。生産率は新鮮胚移植で20.2%、凍結融解胚移植で16.6%でした。平均胚移植数は2.35個、単一胚移植が16.3%、2個胚移植が73.2%、双胎妊娠(ふたご)25.1%、品胎妊娠(みつご)1.8%でした。早産率は、新鮮胚移植で33.7%、凍結融解胚移植で26.3%でした。周産期死亡率(妊娠満22週から出生後満7日未満の胎児および新生児死亡)は、新鮮胚移植で2.58%、凍結融解胚移植で1.42%でした。

解説:最新レポートとはいえ、9年前のデータですので、現在の状況とはかなり異なっています。単一胚移植を導入する国が多少みられ始めた頃のデータです。2004年の日本のポジションは、採卵あたり生産率で44カ国中40位ですが、下位6カ国(アルバニア、リトアニア、マケドニア、日本、ヨルダン、ベルギー)はいずれも移植胚数が平均1.1個前後と少ない国でしたので、決してレベルが低い訳ではありません。2004年当時は、3~4個移植している国が10%もあり、生産率1位は米国ですが、平均2.8個胚移植していました。そのため、ふたご、みつごもかなり多く、このような状況を改善するべく、世界の動向は1個移植1人出産に向かっています。また、凍結融解技術が向上したため、現在では凍結融解胚移植が多くなっていますが、日本が最も凍結融解技術で世界をリードしています。つまり、ICMARTの2004年のデータは、一昔前の日本のデータに類似していますが、世界の方向は徐々に現在の日本のものになりつつあります。そういった意味では、日本は体外受精先進国といえるでしょう。