フィラグリンとアトピー | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

妊娠すると様々な心配事が生じます。「流産しないだろうか」「五体満足だろうか」「アトピーじゃないだろうか」などです。近年、アトピー性皮膚炎が増加(10~30%)しており、その心配は確かに頷けます。最新の知見によると、アトピーの考え方が随分変わってきました。かつては「何だかよくわからない病気」だったのですが、今では原因遺伝子も徐々に特定され、予防の時代に突入しようとしています。近い将来、「アトピー」の心配をしなくても済むようになると思います。

Br J Dermatol 2010; 162: 472(日本)Review
要約:「アトピー性皮膚炎は、最初にアレルギーありきではなく、皮膚のバリアー機能不全が全ての始まりである」と解明されました。生まれつき皮膚が鱗(うろこ)のようにカサカサになる「尋常性魚鱗癬(じんじょうせいぎょりんせん)」という疾患の責任遺伝子が、皮膚のバリア機能に関与するタンパク質「フィラグリン(FLG)」の遺伝子であることがわかり、このFLG遺伝子の異常アトピー性皮膚炎が関連していることが2006年に明らかになりました(Nat Genet)。欧米人の半数、日本人の27%でFLG遺伝子変異がアトピー性皮膚炎の発症因子となっていることが最近報告されました。
アトピー性皮膚炎は、多様な病因、増悪因子が絡んで発症しますが、FLG遺伝子変異は現在知られているアトピー性皮膚炎の発症因子の中で、最も頻度の高い因子です。FLG遺伝子変異は、アトピー性皮膚炎だけでなく、アレルギー性鼻炎や喘息の発症因子のひとつであることも明らかになっています。

皮膚のバリアー機能不全とは?
皮膚のバリアーが弱いと、そこからアレルギー感作や炎症を起こす外界の異物が侵入しやすくなります。そのため、食物、ダニなどに感作され、湿疹をはじめとして、喘息、鼻炎などを起こしていきます。赤ちゃんの頃からの適切なスキンケアと湿疹治療を継続して行うことで、将来のアレルギー疾患の発症を予防することができます。

フィラグリン(FLG)遺伝子変異を検査すると何ができるのか?
FLG遺伝子変異を有する小児に対して、ダニや花粉等のアレルゲンへの暴露を減らし、積極的に保湿剤などの皮膚バリア機能を補う外用を行い、アトピー性皮膚炎の発症を予防する、フィラグリン遺伝子変異データに基づく、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、喘息のテーラーメイド予防が将来可能になると考えられています。

解説:本論文の著者である秋山真志先生(名古屋大学皮膚科学教授)は、フィラグリン研究の第一人者です。慶應義塾大学から北海道大学に異動し、最近名古屋大学教授に就任されました。秋山先生は、私の大学時代のクラブの先輩で、いろいろな論文検索をしている際にひょんなことから本論文を拝見するに至りました。めったにない疾患である尋常性魚鱗癬の研究がまさか「アトピー」と結びつくとは誰も想像できなかったようです。

時には、全く関係ない分野の勉強も新鮮です。医学は確実に進歩していることを実感します。