Q&A1061 精子の選別 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q ARTして2年弱、5つ目の病院で初めて男性不妊を指摘されました。夫の精子はほとんど奇形とのことでした。今までの4つの病院(どこも有名~超有名なとこばかりです)では、精子は問題ないと言われ、フリカケでいける時もありましたが、化学流産止まりでした。

転院先の医師曰く、顕微授精と言ってもほとんどの病院は動いてる精子を選んでるだけで、形や大きさまで見ていない。そこまで詳細に見れる設備がない病院がほとんどと言われました。転院先では、精子選別のお陰なのか、初めての採卵で胚盤胞が出来ました。今までの病院での顕微授精とは何だったのかと憤りを感じています。顕微授精ってその程度の認識でやってる病院が多いんでしょうか。

A 精子に関しては、婦人科主導で行ってきたこれまでの日本のARTの弊害が出ているように思います。良い精子と良い卵子があって初めて良い受精卵(胚)になります。したがって、良い精子の選別が、良好胚成立のひとつの条件です。たとえば、当院は無精子症のTESEを年間約300例行っています。これは、おそらく世界一の件数です。TESEでは、良い精子の選別が最も重要になります。このように厳しい条件の方の精子を毎日探して顕微授精を行っていると、普通の顕微授精の際にも厳しい目で精子の選別ができるようになります。それが培養士のレベルアップになり、ひいては妊娠成績の向上につながります。

行列ができているレストランが必ずしも美味しいとは限らないように、有名なクリニックが技術的に良いとは限りません。顕微授精だけでなく、培養技術や凍結技術にも、クリニック間の大きな差があるように思います。しかし、これはそのクリニックの内部に入って初めてわかることですので、患者さんにはわからない部分です。同様に、医師の知識や経験にも大きな差があります。これは、転院経験のある方ならおわかりかと思いますし、ある程度治療経験のある方なら医師と少し話をしてみればわかるでしょう。

私は再三、日本でも欧米のように第3者機関がARTの統計をまとめ、各クリニックの生データを公表すべきだと述べてきました。それが一番患者さんのためになる情報だからです。レストランは一度自分で食べてみればわかりますが、不妊クリニックは一度やってみたくらいではなかなかわかりません。

下記の記事を参照してください。
2016.4.1「Q&A1047 施設別のデータが公開されないのは何故?」