全粒粉摂取と子宮内膜厚、妊娠率の関係 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、全粒粉摂取と子宮内膜厚、妊娠率の関係を調べたものです。

Fertil Steril 2016; 105: 1503(米国)
要約:2007~2014年273名の女性で438周期の体外受精を行い、全粒粉摂取と妊娠成績の関係を前方視的に検討しました(EARTHスタディー)。全粒粉摂取の中央値は1日34.2g(1.2回摂取)であり、より多く全粒粉を摂取された方で、着床率と生産率が増加していました。全粒粉摂取量で4群に分けたところ、生産率は最小摂取群(1日21.4g未満)35%、最大摂取群(1日52.4g以上)53%と有意差を認めました。この傾向は、germ(胚)摂取よりもbran(ぬか)摂取で顕著でした。体外受精実施の際の各種パラメータと全粒粉摂取の関連を調べたところ、胚移植時の子宮内膜厚のみが有意差をもって抽出されました。1日28g摂取量増加に伴い、子宮内膜厚は0.4mm増加しました。

解説:全粒粉は小麦粉の一種で、小麦の表皮、胚芽、胚乳をすべて粉にしたものです。胚乳だけを用いる通常の小麦粉と比べ栄養価が高く、食物繊維、抗酸化物質、ビタミン、ミネラル、リグナン、フェノール類を含み、心血管疾患、癌、糖尿病、肥満のリスクを低下させることが知られています。これは、全粒粉が抗炎症作用、抗酸化作用、糖代謝促進作用(インスリン抵抗性改善作用)を持つためと考えられます。糖尿病やインスリン抵抗性(糖尿病予備軍)は多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)や不育症のリスク因子であることが知られています。また、リグナンはエストロゲン様作用や抗酸化物質として働く植物エストロゲンのひとつです。このため、全粒粉は妊娠率改善に寄与するのではないかと考え、本論文の研究が行われました。本論文は、全粒粉摂取が子宮内膜厚を増加させること、着床率と生産率を増加させることを示しています。ひとつの論文だけで結論を導くことはできませんが、妊娠を目指した食生活の中に全粒粉を取り入れてみるのは一法だと思います。

なお、1837年に米国のシルベスター・グラハム博士が栄養価の高さに注目し、全粒粉の利用を薦めたことからグラハム粉とも呼ばれます。健康志向の米国人に人気の小麦粉です。

また、EARTH(Environment and Reproductive Health)スタディーは、生活環境と生殖を前方視的に検討するスタディーです。これまでに下記の論文を紹介してきました。
2016.3.27「食生活は体外受精の成績に影響を及ぼすか?」
2016.1.19「フタル酸による卵巣予備能低下」
2015.6.11「☆野菜や果物の農薬量と男性不妊の関係」