抗リン脂質抗体による胎盤への直接作用 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、抗リン脂質抗体による胎盤への直接作用(ダメージ)とその治療法について検討したものです。

 

Am J Reprod Immunol 2017, in press(コロンビア)

要約:抗リン脂質抗体を持つ不育症の方8名不育症+血栓症の方7名を対象に、対照群として健常女性7名と抗リン脂質抗体のない不育症の方10名の血液から、IgG抗体分画を抽出し、胎盤細胞(HTR8/SVneo)への直接作用を検討しました。抗リン脂質抗体陽性のIgG抗体は、胎盤に強固に結合し、胎盤細胞のアポトーシスを増加し、ミトコンドリア膜電位を減少させ、胎盤細胞の浸潤能を低下させました。抗リン脂質抗体による胎盤細胞の浸潤能低下は、低分子ヘパリン、アスピリン、ATL(aspirin-triggered lipoxin)によって改善が認められました。また、不育症の方のIgGのみがSTAT3リン酸化を低下させました。

 

解説:抗リン脂質抗体は血液凝固異常を引き起こすことがよく知られていますが、胎盤への直接作用(ダメージ)として、胎盤の分化抑制、増殖抑制、hCG分泌抑制、浸潤抑制作用も存在します。本論文は、抗リン脂質抗体による胎盤への直接作用をクリアーに示し、ヘパリン+アスピリン治療の有用性もキレイに示しています。さらに、抗リン脂質抗体の新しい治療の可能性として、ATL(aspirin-triggered lipoxin)を初めて紹介しています。ATLは抗炎症作用、免疫調節作用、血管新生調節作用を持ち、妊娠高血圧症候群の治療に有効であると報告され、最近注目されています。

 

下記の記事を参照してください。

2016.2.3「抗リン脂質抗体症候群の不思議

2015.7.22「☆へパリン治療の有効性