☆流産胎児絨毛染色体検査の精度 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、流産胎児絨毛染色体検査(POC)の精度について示しています。非常に興味深い内容です。

 

Fertil Steril 2017; 107: 1028(米国)

要約:2014〜2015年に流産手術時に採取した流産胎児絨毛60検体の染色体検査を3種類の方法でブラインドで行い、その結果を比較しました。染色体検査方法は、従来の培養法SNP+PSA(parental support algorithm)法、aCGH+STR(short tandem repeats)法で実施しました。少なくとも1つの方法で異常がみられた検体は78%(47/60)であり、このうちトリソミーが72%(34/47)、卵子由来の異常が89%(42/47:SNP法による)でした。正常であった13検体の性比は、女/男=4/9でした。少なくとも2つの方法で一致がみられたものを正解とすると67%(40/60)であり、全ての検査で不一致だったのは33%(20/60)でした。正解率は、従来の培養法85%、SNP+PSA法93%、aCGH+STR法85%となりました。全ての検査で不一致だった理由として、モザイク11件、倍数体4件、細胞培養不成功2件、母体細胞混入2件を認めました。また、全体として、モザイク18%(11件)、倍数体7%(4件)、細胞培養不成功7%(4件)、母体細胞混入3%(2件)でした。なお、細胞培養不成功の75%(3/4)で染色体異常が確認されました。

 

解説:流産胎児絨毛染色体検査(POC)はこれまで培養法で行われてきました。細胞培養して細胞分裂中期の染色体の写真を撮り、染色体を並べ替えるという手作業でした。これにはまず、細胞培養が上手くいくという前提条件がありますが、10〜40%で細胞培養不成功になると報告され、29〜58%で母体由来の細胞の混入が生じる可能性が報告されています。さらに、培養によって細胞が変化してしまう可能性も否定できませんし、5Mb未満の微小欠失を検出できないといった難点がありました。近年登場した分子生物学的手法を用いた染色体分析法(SNP法、aCGH法)では、細胞培養が不要、母体由来の染色体の除外が可能、微小欠失の検出が可能であり、小さなサンプルや過去の標本サンプルからも分析が可能であり、分析に要する時間も短縮できます。本論文は、流産胎児絨毛染色体を従来の培養法と分子生物学的方法で行い、その精度を比較した初めての報告です。母体細胞の混入は予想外に少なく(3%)、モザイクが予想外に多く(18%)、細胞培養不成功の場合の多く(75%)で染色体異常が確認できたことを示しています。

 

着床前スクリーニング検査(NGS)が時代とともに急速に進化しているように、今後、流産胎児絨毛染色体検査(POC)も同様の進化をするものと考えます。つまり、SNP法→aCGH法→NGS法という方向です。自宅で排出したサンプルや過去のサンプルの分析も可能ですので、不育症の原因究明が幅広くなります。費用面の問題点が解決されれば、不育診療に革命をもたらすと言っても過言ではないでしょう。

 

下記の記事を参照してください。

2014.3.18「☆流産胎児染色体分析における母体細胞の混入