インキュベータは、非加湿型(ドライ)より加湿型(ウエット) | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、胚培養のインキュベータは、非加湿型(ドライ)より加湿型(ウエット)が良好であることを示しています。

 

Fertil Steril 2017; 108: 277(エジプト)

要約:2012〜2015年にエジプトの2箇所のクリニックで初回顕微授精を実施する方で、33歳未満、BMI 30未満、AFC 10個以上、成熟卵8個以上の方を対象に、ランダムに2群に分け(非加湿型と加湿型インキュベータ)、新鮮胚移植を行い、培養成績と妊娠成績を前方視的に検討しました。なお、子宮内膜症、内膜8mm未満、凍結精子使用、精子数1000万/mL未満、精子直進運動率5%未満の場合は除外しました。ランダム化はエクセルのランダムナンバーテーブルにより行い、培養士以外のスタッフと患者さんにはわからないようにしました。インキュベータはもともと非加湿型であるK-Systemを用い、専用のトレーで通常の非加湿型(ドライ)と、全く同じものを用いたものでペトリディッシュに培養液を入れたものを培養器内に挿入(ウエット)したものを準備しました。有意差のみられた項目は下表の通りで、全て加湿型(ウエット)に軍配が上がりました。

 

         非加湿型(ドライ)   加湿型(ウエット)

良好分割胚率     65%          83%

胚盤胞到達率     51%          73%

良好胚盤胞率     35%          61%

胚盤胞凍結率     33%          55%

臨床妊娠率      43%          57%

妊娠継続率      37%          52%

着床率        27%          36%

 

解説:体外受精の歴史は、刺激法改善や培養環境改善の歴史でもあります。培養環境としては、培養液のpH、温度、培養ガスの濃度、浸透圧、湿度が関与しています。このため培養液の選択やインキュベータの選択も重要なポイントです。生体内は一定の湿度に保たれていますので、当初は加湿型(ウエット)インキュベータしかありませんでした。しかし、加湿型(ウエット)のデメリットは細菌が混入した際の細菌繁殖であり、これが生じると胚は全滅します。そこで、最近、非加湿型(ドライ)のインキュベータが登場しました。本論文は、胚培養のインキュベータで非加湿型(ドライ)と加湿型(ウエット)のどちらが良いかについてランダム化試験による検討を行った初めての報告であり、非加湿型(ドライ)より加湿型(ウエット)が良好であることを示しています。しかし、たった1件の論文に過ぎませんから、結論を出すには大規模なランダム化試験が必要です。なお、当院のインキュベータは加湿型(ウエット)です。