ビタミンDと生殖についての最新の論文をご紹介します。
①Ann Agric Environ Med 2016; 23: 671(ポーランド)doi: 10.5604/12321966.1226865
要約:ビタミンDと生殖医療に関する論文をまとめてみました。
多嚢胞性卵巣(PCOS):インスリン抵抗性・肥満とビタミンD減少
子宮筋腫:サイズ・症状と血中25OH-VitD減少、ビタミンDは筋腫のアポトーシスを誘導
体外受精:高妊娠率と血中25OH-VitD濃度増加
子宮内膜症:血中25OH-VitD濃度増加、血中1,25(OH)2VitD濃度増加、内膜症細胞でVDR数増加、重症の内膜症で血中25OH-VitD減少、VDBPの多型増加
②Med Sci Monit 2016; 22: 4960(イラン)
要約:2014〜2016年に腹腔鏡にて子宮内膜症と診断がついた15〜40歳の女性で、術後2ヶ月の生理痛がVASスケールで3以上を記録した方39名を対象に、ビタミンD投与群(19名)とプラセボ群(20名)の2群にランダムに分け、痛みの変化を前方視的に検討しました。なお、ビタミンD投与群は50,000IU/週を12週間投与しました。両群の生理痛の変化に有意差は認められませんでした。
③Taiwan J Obstet Gynecol 2016; 55: 835(台湾)doi: 10.1016/j.tjog.2015.06.018
要約:Wistarラット30匹の腹膜に子宮内膜を移植することにより実験的子宮内膜症モデルラットを作成し、ビタミンD群、オメガ3脂肪酸群、対照群の3群に分けビタミンDとオメガ3脂肪酸の投与効果を前方視的に検討しました。ビタミンDは42 μg/kg/day、オメガ3脂肪酸は450 mg/kg/day、対照群は生理食塩水 0.1mLをそれぞれ腹腔内投与4週間実施しました。4週間後の移植子宮内膜のサイズを計測したところ、対照群とビタミンD群では変化がなく、オメガ3脂肪酸群で有意な減少を認めました。
解説:ビタミンDにはビタミンD2(エルゴカルシフェロール)とビタミンD3(コレカルシフェロール)があり、前者はシイタケに、後者は魚の肝臓に含まれます。ヒトの身体では、紫外線(UVB)を浴びることでどちらも皮膚で合成されます。両者とも活性はなく、血中のビタミンD結合タンパク(VDBP)に結合して肝臓に運ばれ、チトクロームP450酵素(CYP27A1、CYP3A4、CYP2R1)によって25ヒドロキシビタミンD(カルシジオール、25OH-VitD)に変換されます。25OH-VitDとVDBPの結合体が血液を介して目的臓器に運ばれ、CYP27B1酵素によって1,25-ジヒドロキシビタミンD(1,25(OH)2VitD)に変換され初めて活性を持ちます。半減期が15日間と長いため、血中25OH-VitD濃度測定が、ビタミンDの多寡を表す良い指標になります。WHOではビタミンD不足を、25OH-VitD<20 ng/mLとしていますが、内分泌学会の臨床ガイドラインでは、<20 ng/mLをビタミンD不足、21〜29 ng/mLを不十分、30 ng/mL以上を十分量としています。ビタミンDは核内のビタミンD受容体(VDR)に結合して働きますが、VDRにより調節されている遺伝子は200種類以上あり、骨とミネラル代謝のみならず、心血管疾患や免疫系や癌との関連が示唆されています。
論文①は、ビタミンDの補充により、多嚢胞性卵巣(PCOS)、子宮筋腫、体外受精にはプラスに働くことを示していますが、子宮内膜症についてはプラスなのかマイナスなのかどちらとも言い難いようです。論文②はビタミンD投与による生理痛軽減がみられなかったことを、論文③は動物実験によりビタミンD投与による内膜症改善効果がみられなかったことを示しています(一方、オメガ3脂肪酸は有効)。
ビタミンDに関しては、下記の記事を参照してください。
2018.11.14「ビタミンDと不育症」
2018.10.12「ビタミンDは卵巣予備脳とは無関係」
2018.2.25「ビタミンDによる胎盤形成作用の基礎的検討」
2018.1.20「ビタミンD濃度と体外受精の成功率の関係:メタアナリシス」
2017.10.20「ビタミンD不足と不妊の関係」
2017.8.20「健康な女性におけるビタミンDと妊娠の関係」
2017.8.18「ビタミンDの効能:妊娠免疫の観点から」
2017.3.20「ビタミンD製剤は、不育症治療に有用?」
2016.12.8「☆ビタミンDの卵胞発育促進作用」
2016.12.5「☆不育症とビタミンDの関係」
2016.12.4「☆ビタミンD製剤はいつ服用すればよいか」
2016.3.31「妊娠中のビタミンD大量投与」
2014.10.26「☆ビタミンD不足だと妊娠率が低下する」
2014.4.7「☆ビタミンD不足で着床障害になる?」
2014.3.17「☆ビタミンD欠乏は不育症のリスク因子です」
2013.2.25「白人ではビタミンD濃度が高いと体外受精の妊娠率がよい」
2012.12.10「ビタミンDの効用 妊娠•授乳編」
2012.12.8「☆ビタミンDの効用 女性編 」
オメガ3脂肪酸に関しては、下記の記事を参照してください。
2018.1.23「☆オメガ3脂肪酸摂取で妊娠成績向上」
2015.2.19「脂肪酸の採り方で精子の運動率が変化する」
2013.3.19「お魚は内膜症の方にもお勧め」
2012.11.11「オメガ3脂肪酸は男性にもお勧め」
2012.11.10「オメガ3脂肪酸の抗炎症作用」
2012.10.8「妊娠を目指す女性はお魚を食べましょう」