☆植物性エストロゲン(大豆)による着床能低下の可能性 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、植物性エストロゲン(大豆)による着床能低下の可能性を示唆したものです。

 

Fertil Steril 2019; 112: 947(スペイン)doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.06.014

Fertil Steril 2019; 112: 825(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.07.016

要約:2016〜2017年に妊娠歴のある18〜33歳卵子提供ドナー20名(BMI 20〜25)採卵当日に子宮内膜を採取し、分離した子宮内膜間質細胞にダイゼインやゲニスタイン(0、10、20、50、100μM)を添加し、その効果をインビトロで評価しました。なお、MPAとcAMP添加により脱落膜化させた内膜と脱落膜化させない内膜に分けて検討しました。脱落膜化の子宮内膜間質細胞は、ダイゼインやゲニスタイン添加により濃度依存性に細胞増殖が抑制され(48〜96時間)、特に50〜100μMではほぼ完全に抑制されました。脱落膜化の子宮内膜間質細胞は、ダイゼインやゲニスタイン添加により、本来あるべき細胞骨格の変化が起きずプロラクチン産生も濃度依存性に低下しましたが、細胞増殖能や細胞死/アポトーシスに変化はありませんでした。また、脱落膜化の子宮内膜間質細胞は、ダイゼインやゲニスタイン添加により、ERやPRに変化はありませんでした。

 

解説:子宮内膜間質細胞の脱落膜化にはP4(黄体ホルモン)が関与していますが、E2(エストロゲン)の関与も報告されています。生体内のエストロゲンに影響する物質を内分泌撹乱化学物質(EDCs、いわゆる環境ホルモン)と呼び、ビスフェノールA、フタル酸、重金属、植物性エストロゲンが含まれます。植物性エストロゲンは主に大豆由来のもので、ダイゼインやゲニスタインがメイン物質です。アジアでは大豆は日常的によく食べますが、最近は健康ブームにより欧米でも良く食べられるようになっています。本論文は、内分泌撹乱化学物質としての植物性エストロゲン(大豆)が子宮内膜に与える影響をインビトロで検討したものであり、高濃度ダイゼインやゲニスタインは、脱落膜化前後の子宮内膜に大きな変化をもたらし、着床能低下の可能性を示唆しています。

 

コメントでは、一口に大豆製品といっても様々で、テンペ(インドネシアの納豆)、枝豆、味噌などの加工食品とパウダータイプの調味料的なもので同等な影響が得られるのかどうかの検討や、アジア人が毎日50mgのイソフラボンを摂取する一方で、欧米では毎日2mg未満の摂取量で、しかもレギューム、全粒粉、種といったものが中心で摂取内容が大きく異なることの検討など、クリアしなければならない課題が山済みだとしています。従って、本論文のデータだけで、これまで健康上メリットがあるとされてきた大豆摂取の制限を(欧米では)すべきとは言えないと結んでいます。

 

大豆製品に関しては、下記の記事を参照してください。

2019.1.14「☆大豆調整乳で育った女性は生理痛に悩まされる!?

2013.2.13「☆女性ホルモンのサプリは本当に健康によいか:日本編

 

環境ホルモンについては、下記の記事を参照してください。

2019.5.27「卵胞液中の環境ホルモン

2019.2.27「環境ホルモンと妊娠高血圧症候群の関連は?

2019.1.30「フタル酸と筋腫の関連 その2

2019.1.12「環境ホルモンによる思春期への影響は?

2018.5.23「ビスフェノールによる卵子の異常

2012.12.15「環境ホルモンの影響 女性編 その1
2012.12.19「環境ホルモンの影響 男性編
2013.1.8「環境ホルモンの影響 女性編 その2
2013.1.10「☆妊娠中にヘアカラーやパーマは大丈夫?
2013.2.20「心臓の先天異常は父親の化学物質暴露と関連
2013.8.13「子宮内膜症と環境ホルモンの関係
2013.9.27「☆ビスフェノールAは男性ホルモンを低下させる
2013.12.5「☆ビスフェノールAは卵子の発育を阻害する
2013.12.19「☆キスペブチンとは?
2014.2.28「ビスフェノールAの卵子への影響
2014.3.21「ビスフェノールAの精子と胚への影響
2014.4.18「☆パラベンの影響は?
2014.7.17「男性のフタル酸濃度の影響
2014.9.28「フタル酸で女児の思春期が遅くなる?
2014.9.30「ビスフェノールAによる流産リスク
2014.11.4「環境ホルモンは黄体機能不全の原因
2014.12.5「ビスフェノールAと内膜症
2015.2.4「ビスフェノールAの代替品は大丈夫?
2015.9.10「ビスフェノールAと体外受精の妊娠率の関係
2015.10.22「UVフィルターによる精子への影響
2015.11.21「フタル酸濃度と妊娠治療の関係

2016.7.20「培養環境での環境ホルモン暴露の可能性

2017.3.9「ビスフェノールAによる顆粒膜細胞の遺伝子変化