☆ARTによる赤ちゃんの男女比:大気汚染の影響 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

赤ちゃんの性別には特に関心が高いのが日本人の特徴です。本論文は、ART(体外受精、顕微授精)による赤ちゃんの男女比について大気汚染の影響を調査したものです。

 

Fertil Steril 2020; 113: 140(中国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.09.004

要約:2013〜2017年に実施したART治療により出産した7004名の単胎妊娠を対象に、採卵から移植(あるいは凍結)までの大気汚染状況男女比の関連について後方視的に検討しました。大気汚染状況については、毎日発表されるMEPCのデータを用い、PM10、PM2.5、CO、NO2、O3、SO2濃度について検討しました。なお、培養室は、HEPAフィルタとCodaタワーシステムによる空気清浄管理をしています。男女比は、体外受精(ふりかけ法)で1.21、顕微授精で1.14、新鮮胚で1.12、凍結胚で1.32、単一初期胚移植で1.09、初期胚2個移植で1.08、単一胚盤胞移植で1.40、胚盤胞2個移植で1.34でした。男女比との関連が唯一認められたのはSO2(二酸化硫黄)濃度であり、SO2濃度を10段階に分けると、男女比は下表のようになりました。

 

SO2濃度    単一胚盤胞移植   その他(初期胚、複数胚)

1群(最低濃度)   1.07         1.32

2群         1.49         1.12

3群         1.43         1.28

4群         1.32         1.13

5群         1.66         1.24

6群         1.36         0.94

7群         1.82         1.19

8群         1.35         1.05

9群         1.31         1.05

10群(最高濃度)  1.06         1.02

 

解説:自然妊娠の場合の赤ちゃんの男女比は1.05〜1.07と報告されています。体外受精と胚盤胞移植では男児の割合が(自然妊娠の場合より)高くなり、顕微授精と初期胚移植では女児の割合が(自然妊娠の場合より)高くなることが知られています。本論文でも同様の事実を示しつつ、さらに凍結胚で男児の割合が(自然妊娠の場合より)高くなり、新鮮胚で女児の割合が(自然妊娠の場合より)高くなることも示しています。一方、大気汚染による男女比に関しては複雑で、単一胚盤胞移植ではSO2濃度が中等度の場合に男児の割合が(自然妊娠の場合より)高く、その他の移植ではSO2濃度が高濃度の場合に女児の割合が(自然妊娠の場合より)高くなります。施設によりART妊娠で男女比が異なるのは、体外受精と顕微授精の割合、初期胚移植と胚盤胞移植の割合、新鮮胚移植と凍結胚移植の割合、培養環境(大気汚染も含む)など様々な要因が関与するものと考えます。

 

男女比については、下記の記事を参照してください。

2019.10.29「☆ARTによる赤ちゃんの男女比

2016.5.7「☆精液所見による体外受精妊娠の男女比の違い

2016.1.4「女の子が欲しい時、夫に痩せてもらう?

2014.6.14「☆体外受精、顕微授精による赤ちゃんの男女比

 

大気汚染については、下記の記事を参照してください。

2019.11.5「大気汚染と妊娠:米国

2019.10.4「☆妊活中、妊娠中に気をつけること:化学物質への暴露

2019.3.4「大気汚染と流産リスク:ケース・クロスオーバー研究

2018.6.21「大気汚染と体外受精の成績

2018.3.29「初潮の頃の大気汚染で生理不順?

2018.2.11「☆大気汚染と流産の関係

2018.1.11「大気汚染による妊孕性への影響は?

2016.4.6「大気汚染と不妊症

2014.3.5「☆PM2.5よりタバコが怖い

2013.6.10「☆PM2.5で卵子が少なくなる?