☆ビタミンDによる筋腫の治療:その3 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、ビタミンDによる筋腫の治療に関する第3報です。

 

Fertil Steril 2021; 115: 512(スペイン、イタリア)

Fertil Steril 2021; 115: 340(米国)コメント

要約:30〜61歳の子宮筋腫を有する女性37名(無治療)の手術による摘出組織(子宮筋腫、正常子宮筋層)およびHULP(human uterine leiomyoma primary cells)細胞株を培養し、ビタミンDを添加した際の、MED12遺伝子変異状態の違いによる細胞増殖能、Wnt/βカテニン経路、TGFβ経路の変化を検討しました。46%の筋腫でMED12変異を認めましたが、正常子宮筋層では変異はありませんでした。MED12変異をもつ筋腫では、Wnt/βカテニン経路、TGFβ経路の遺伝子発現が有意に増強していましたが、MED12変異のない筋腫ではこれらの遺伝子発現の増強を認めませんでした。また、HULP細胞では、MED12変異の有無に関わらず、ビタミンD添加(1,25(OH)2ビタミンD1000nMにより細胞増殖能、WNT4、βカテニン、TGFβ3、MMP9発現が有意に低下しました。

 

解説:子宮筋腫は、生殖年齢の女性の70%が罹患する極めてポピュラーな疾患です。従来の手術療法や女性ホルモン抑制療法(GnRHa)とは異なる新たな治療戦略として、SPRM(選択的プロゲステロン受容体調節剤:ユリプリスタール、ビラプリサン)、スタチン製剤、ビタミンDが注目されています。本論文の著者は、2019.3.9「☆ビタミンDによる子宮筋腫の治療効果」で紹介した論文で、ビタミンDによる子宮筋腫の治療効果をヒト子宮筋腫細胞の培養系(in vitro)で示しました。また、2020.3.3「☆ビタミンDによる筋腫の治療」では、ヒト子宮筋腫組織を免疫不全マウスに移植し、ビタミンD(1.0μg/kg/d)による筋腫の治療効果をin vivoで示しました。本論文は、ビタミンDによる子宮筋腫の細胞増殖抑制効果として、TGFβ経路を介した細胞外マトリクス量低下とWnt/βカテニン経路の抑制効果であることをヒト子宮筋腫細胞の培養系(in vitro)で示しています。

 

最新の子宮筋腫の遺伝子研究では、HMGA2(High Mobility Group AT-hook 2)遺伝子再配列、MED12(MEDiator complex subunit 12)遺伝子変異、FH(Fumarate Hydratase)対立遺伝子不活化、COL4A5(COLlagen type 4 alpha 5)遺伝子欠失、COL4A6遺伝子欠失が疾患の原因遺伝子として報告されています。このうち、MED12遺伝子変異は最も多く、民族により48〜92%を占めています。

 

疫学(統計)調査からビタミンD不足と子宮筋腫の関連が示唆されているだけでなく、ビタミンD不足と各種の悪性腫瘍(癌)との関連が報告されています。ビタミンDには細胞増殖抑制効果があるため、抗腫瘍効果(癌の予防効果)もあるのではないかと期待されています。ビタミンDによる細胞増殖抑制効果は、TGFβ経路を介した細胞外マトリクス量低下とWnt/βカテニン経路の抑制効果にあると考えられています。例えば、Wnt/βカテニン経路の癌関連遺伝子としてcMYC、TCF1、LEF1、AXIN2、PPARδがありますが、ビタミンD投与によりこれらが抑制されることが報告されています。

 

コメントでは、1,25(OH)2ビタミンD濃度1000nMを得るために必要なヒトでの投与量が不明であること、ビタミンD不足がない場合にも有効かどうかの検討が必要であり、臨床応用には更なる検討が必要であるとしています。

 

下記の記事を参照して下さい。

2020.3.3「☆ビタミンDによる筋腫の治療

2019.3.9「☆ビタミンDによる子宮筋腫の治療効果

2019.2.7「☆ビタミンDと生殖