母体の環境汚染物質暴露でお子さんの精液所見低下 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、母体の職業的な環境汚染物質暴露でお子さんの精液所見が低下することを示しています。

 

Hum Reprod 2021; 36: 1948(スイス、フランス)doi: 10.1093/humrep/deab034

要約:2005〜2017年18〜22歳のスイス徴兵男子を対象に、本人とその両親に調査の依頼を行い、同意が得られた1,737名について、質問票による両親の生活習慣や環境と息子の精液所見の関連を検討する横断調査を行いました。1,045名の母親が妊娠中に仕事をしていました。父親の生活習慣や環境と息子の精液所見に有意な関連は認めませんでした。母親の妊娠中の職業的な環境汚染物質暴露と精液所見の結果は下記の通り(オッズ比と信頼区間を表示、有意差ありを赤字表示)。

 

              殺虫剤        有機溶媒       重金属

精液量<2.0mL     2.07(1.11〜3.86) 1.92(1.10〜3.37) 2.02(1.14〜3.60) 

精子濃度<2000万/mL 1.56(0.81〜2.99) 1.36(0.76〜2.43) 1.89(1.06〜3.37)    

総精子数<4000万   2.14(1.05〜4.35) 1.89(1.01〜3.55) 2.29(1.21〜4.35)

運動率<50%      1.21(0.68〜2.16) 1.22(0.73〜2.05) 1.19(0.70〜2.03)

正常形態率<4%     1.50(0.85〜2.64) 1.09(0.65〜1.81) 1.34(0.79〜2.26)

 

解説:両親の生活習慣や環境とお子さんの健康状態や妊孕性に関する研究はそれほど多くありませんが、一部で影響の可能性が示唆されています。本論文は、母体の職業的な環境汚染物質暴露(殺虫剤、有機溶媒、重金属)でお子さんの精液所見が低下することを示しています。質問票による間接的な調査であること、横断研究であることという問題点はありますが、妊娠中の女性は殺虫剤、有機溶媒、重金属を吸い込まないような防御策が必要と考えます。

 

下記の記事を参照してください。

2021.3.4「☆ダイオキシン暴露による子孫への影響

2020.9.21「ビスフェノールAによる男系子孫への影響

2019.1.12「環境ホルモンによる思春期への影響は?

2014.12.20「殺虫剤が子孫の精子を悪くする?

2014.2.19「母体のPFOA暴露による子どもに与える影響

2014.1.8「☆マラチオンの影響は?

2013.2.20「心臓の先天異常は父親の化学物質暴露と関連