大気汚染による子宮筋腫リスク | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、黒人における大気汚染による子宮筋腫リスクについての検討です。

 

Hum Reprod 2021; 36: 2321(米国)doi: 10.1093/humrep/deab095

要約:1995年に開始した全米56都市に在住する黒人59,000名(21〜69歳)を対象にした前方視的研究BWHS = Black Women's Health Study)は、黒人の愛読者が多い雑誌「Essence」の読者メーリングリストを元にしたコホート研究です。今回、1997〜2011年に登録した黒人21,998名を対象に、オンラインでライフスタイルと子宮筋腫(医師による診断が必要)に関する質問票調査を行い、同時に大気汚染について、PM2.5、二酸化窒素、オゾンの濃度測定を毎年行いました。196,685人年の調査で、6238人(28.4%)が子宮筋腫の診断を受けました。各種大気汚染による子宮筋腫リスクを計算したところ、PM2.5と二酸化窒素と子宮筋腫リスクには有意な関連を認めませんでしたが、オゾンにより子宮筋腫リスクが1.19倍(信頼区間:1.07〜1.32)有意に増加しました。この効果は、35歳未満、経産婦(出産歴あり)で顕著になりました。

 

解説:子宮筋腫は婦人科で最も頻度の高い疾患です。黒人は白人の2〜3倍罹患率が高く、より若年齢で生じ、シビアなケースが多いことが知られています。また、二つの疫学(統計)調査で、大気汚染による子宮筋腫リスク増加が報告されています。しかし、黒人を対象にした大規模な大気汚染による子宮筋腫リスク研究はこれまでありませんでした。本論文は、このような背景の元に行われた研究であり、黒人における大気汚染による子宮筋腫リスクはオゾンのみで有意に認められることを示しています。大気汚染は酸化ストレスと炎症を惹起するため、子宮筋腫の発症に関与するものと推察されますが、人種による違いや大気汚染の種類については、さらなる検討が望まれます。