尿中フェノールと妊孕性・流産 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、尿中フェノールと妊孕性・流産に関する前方視的検討です。

 

Hum Reprod 2023; 38: 139(米国)doi: 10.1093/humrep/deac230

要約:1982〜1986年に、自然妊娠を目指す221名の女性を対象に、毎朝第1尿を提出していただき、尿中の各種フェノール濃度を測定し、半年間で累積706月経周期の妊娠及び流産に関する前方視的検討を実施しました(North Carolina Early Pregnancy Study)。なお、測定したフェノールは、メチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、トリクロサン、ベンゾフェノン-3、2,4-ジクロロフェノール、2,5-ジクロロフェノールの7種類です。135名が出産、15名が流産、48名が6週未満の流産に至りました。2,5-ジクロロフェノールが5段階のうち1番高い濃度の場合に、6週未満の流産が有意に高くなっていました(オッズ比4.79)。また、ブチルパラベントリクロサンが検出できた場合に、妊娠率が有意に高くなっていました(オッズ比1.621.49)。他のフェノール類では有意差を認めませんでした。

 

解説:フェノール類は、環境ホルモン(内分泌攪乱化学物質)であり、抗エストロゲン作用、抗アンドロゲン作用、甲状腺機能低下作用があります。フェノール類には日常生活で毎日暴露しており、妊孕性に対する悪影響を示唆する論文もありますが、結論は得られていません。本論文は、日常生活で使用頻度の高い7種類のフェノール濃度を測定し、妊孕性及び流産に関する前方視的検討を行ったものであり、2,5-ジクロロフェノール濃度が高い場合に6週未満の流産が有意に高くなり、ブチルパラベントリクロサンが検出できた場合に妊娠率が有意に高くなっていることを示しています。

 

クロロフェノール類は、医薬品および農薬中間体(殺虫剤、殺菌剤、除草剤の原料)として製造されています。しかし、分解されにくい性質から、しばしば完全に焼却処分されずダイオキシン類の前駆物質となることが知られています。

パラベンは、飲料、化粧品、食品、医薬品防腐剤として用いられるため、皮膚、唇、眼、口腔内、爪、毛髪から吸収されます。米国では92%の方の尿中にパラベンが検出されます。

トリクロサンは、一般的な細菌に対する殺菌剤として使用され、 石鹸、シャンプー、歯磨き粉、手指消毒などの医薬部外品で殺菌作用をうたっている製品に使用されています。トリクロサンは、およそ75%の方の尿中に検出されます。

 

フェノール類については、下記の記事を参考にしてください。

2021.11.27「環境ホルモンと子宮筋腫発生」:フェノール7種類、パラベン4種類、トリクロカルバン

2022.11.5「尿中トリクロサン濃度と妊孕性

2015.5.22「トリクロサンによる妊孕性低下
2014.4.18「☆パラベンの影響は?」