残留性有機汚染物質と卵巣予備能 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、生殖年齢の女性における、残留性有機汚染物質(POPs)が卵巣予備能低下(DOR)と関連している否かについて検討した症例対照研究です。

 

Hum Reprod 2023; 38: 701(フランス)doi: 10.1093/humrep/dead028

要約:2016〜2020年にフランス西部の4つの不妊センター通院中の18〜40 歳の女性を対象に、43種類の残留性有機汚染物質(POPs)と卵巣予備能について検討した症例対照研究です。なお、卵巣予備能低下は、AMH≦1.1 あるいは AFC<7のいずれかを満たす場合とし(138名)、対照群はAMH 1.1〜5.0 かつ AFC≧7としました(151名)。43種類のPOPsの内訳は、有機塩素系殺虫剤15種類、PCB 17種類、BDE 9種類です。サンプルの20%以上で検出された17種類のPOPs のうち、有機塩素系殺虫剤のp,p'-DDEが卵巣予備能低下と有意に関連し(DORオッズ比1.39、95%信頼区間 1.10〜1.77)、有機塩素系殺虫剤のb-ヘキサクロロシクロヘキサンが卵巣予備能増加と有意に関連していました(DORオッズ比0.63、95%信頼区間 0.44〜0.89)。 交絡因子を考慮したロジスティック回帰およびベイジアン カーネル マシン回帰(BKMR)を使用して、卵巣予備能低下に対するPOPsの混合効果を検討したところ、混合効果全体では有意な関連性を認めませんでした。 

 

解説:動物実験では、いくつかのPOPsと卵巣予備能低下の関連が知られていますが、ヒトでの研究はごくわずかで、サンプルサイズが小さく、一定の結論は出ていませんでした。本論文はこのような背景のもとに実施された初めての症例対照研究であり、p,p'-DDEが卵巣予備能低下と有意に関連し、b-ヘキサクロロシクロヘキサンが卵巣予備能増加と有意に関連することを示しています。p,p'-DDEにはエストロゲン作用がなく抗アンドロゲン作用があること、b-ヘキサクロロシクロヘキサンにはエストロゲン作用があることから、両者が反対の作用を持つものと考えます。なお、対照群が不妊症女性であるため、生殖年齢のすべての女性を代表するものではない可能性がありますので、結論を導くためには今後の研究が必要です。

 

下記の記事を参照してください。

2023.2.27「尿中フェノールと妊孕性・流産

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