☆パラベン暴露と妊孕性:前方視的検討 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、パラベン暴露と妊孕性に関する前方視的検討を行ったものです。

 

Hum Reprod 2023; 38: 726(中国)doi: 10.1093/humrep/dead016

要約:2013〜2015年に上海出生コホートに参加した合計884組の妊娠前の夫婦を対象に、尿中の6種類のパラベンの濃度測定と、女性ではマロンジアルデヒド(酸化ストレスマーカー)、CRP(炎症マーカー)、AMH(卵巣予備能マーカー)採血を1回行い、妊娠までの時間(TTP) 前方視的に検討しました。調査期間は1年あるいは妊娠が成立するまで2ヶ月毎に電話インタビュー形式で行い、自然妊娠が成立した525組(59.4%)と妊娠しなかった359組の比較を行いました。なお、不妊症は、調査期間の1年間で妊娠しなかった場合と定義しました。女性プロピルパラベン、ブチルパラベン、ヘプチルパラベンは、妊孕性低下(それぞれ0.96倍、0.90倍、0.42倍)および不妊症増加(それぞれ1.06倍、1.14倍、1.89倍)と有意な関連を認めましたが、男性のパラベン暴露と妊孕性の関連は認めませんでした。また、パラベン濃度増加とAMH低下の関連を認め、媒介分析によりパラベン暴露による妊孕性低下にAMH低下が仲介的な役割を担っていることが示唆されました(平均因果仲介効果0.001)。 

 

解説:防腐剤であるパラベンの生殖毒性が示唆されていますが、夫婦の妊孕性に対する影響については明らかではありません。本論文は、パラベン暴露と妊孕性に関する前方視的検討を行ったものであり、女性のパラベン曝露は、妊孕性低下およびAMH低下と関連することを示しています。しかし、男性のパラベン曝露は妊孕性との関連を認めませんでした。本論文は、パラベン暴露の妊孕性への悪影響を調査したアジア人で初めて研究です。 ただし、自己申告による妊娠であること、わずか1 回の尿サンプルによるパラベン濃度測定であること、月経周期が不規則な女性を含んでいることなどの不備がありますので、結論を導くためには今後の研究が必要です。

 

下記の記事を参考にしてください。

2023.2.27「尿中フェノールと妊孕性・流産

2021.11.27「環境ホルモンと子宮筋腫発生

2022.11.5「尿中トリクロサン濃度と妊孕性

2019.1.12「環境ホルモンによる思春期への影響は?

2016.4.14「パラベンと不妊

2015.5.22「トリクロサンによる妊孕性低下

2014.12.20「殺虫剤が子孫の精子を悪くする?

2014.4.18「☆パラベンの影響は?