大気汚染と男性不妊の関係 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、大気汚染と男性不妊の関係に関する全米での検討です。

 

Fertil Steril 2023; 120: 637(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.05.143

Fertil Steril 2023; 120: 648(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.06.034

要約:2005〜2017年にユタ州の2大ヘルスケアシステムで実施された27〜35歳の男性の精液検査21,563件を対象に、居住地域で精液分析前5年間にわたって空気中で測定された大気中の内分泌撹乱化学物質(環境ホルモン)と精液所見の関連について後方視的に検討しました。多変量回帰モデルを用いて各種交絡因子を補正し、9つの環境ホルモンと精液所見の関連を解析しました。無精子症や精子運動率低下との有意な関連が認められたのは、アクリロニトリル、芳香族炭化水素、ダイオキシン、重金属、有機溶媒、有機塩素系物質、フタル酸エステル、銀でした。また、社会経済的に不利な立場の男性ほど、精液所見の低下が認められました。

 

解説:不妊症夫婦の少なくとも半数に男性因子が関与しています。男性不妊には、遺伝的要因、体重、病気、先天異常、投薬、ライフスタイルなどのリスク因子があります。このうち環境ホルモンによる悪影響が多数報告されています。環境ホルモンは、環境、食品、家庭用化学物質、フレグランス、化粧品、ローションなどに含まれており、食物連鎖により人体に蓄積する可能性があります。本論文は、大気汚染と男性不妊の関係に関する全米規模の検討であり、いくつかの物質で無精子症や精子運動率低下との有意な関連を認めています。


コメントでは、ユタ州は、雪山、清流、美しい田園地帯からなる自然にあふれた地域であるにもかかわらず、本論文のような大気汚染と精液所見の関連を示すデータが出現したことに驚きを隠せないとしています。したがって、都市部や工業地帯ではもっと大きなリスクがあることが推察され、都市部での同様な研究が必要があることは明白であるとしています。

 

内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)と男性不妊については、下記の記事を参考にしてください。

2014.12.20「殺虫剤が子孫の精子を悪くする?
2014.7.17「男性のフタル酸濃度の影響」
2014.3.21「ビスフェノールAの精子と胚への影響」
2013.9.27「☆ビスフェノールAは男性ホルモンを低下させる」

2012.12.19「環境ホルモンの影響 男性編」