☆母体BMIと周産期予後:自然妊娠 vs. ART妊娠 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、母体BMIと周産期予後(妊娠合併症・赤ちゃんの状態)について、国家規模のデータベースにより自然妊娠とART妊娠(体外受精、顕微授精)で比較検討したものです。

 

Hum Reprod 2023; 38: 156(ベルギー)doi: 10.1093/humrep/deac221

要約:2009〜2015年にベルギーのフランダー地方における妊娠出産データベースの428,336名を対象に、母体BMIと周産期予後(妊娠合併症・赤ちゃんの状態)について自然妊娠とART妊娠で後方視的に検討しました。結果は下記の通り(オッズ比と95%信頼区間で表示、有意差の見られた項目を赤字表示)。

 

自然妊娠   妊娠合併症なし    健常児出産       帝王切開

BMI<18.5  0.99(0.97〜1.00) 0.98(0.97〜1.00) 0.92(0.88〜0.95)

18.5〜25    〜(基準)     〜(基準)      〜(基準)

25〜30   0.86(0.85〜0.87) 0.98(0.97〜0.99) 1.20(1.18〜1.22)

30〜35   0.71(0.69〜0.72) 0.98(0.97〜0.99) 1.38(1.34〜1.41)

35〜40   0.59(0.57〜0.61) 0.98(0.96〜1.00) 1.55(1.49〜1.61)

BMI≧40.0  0.45(0.42〜0.49) 0.98(0.95〜1.02) 1.73(1.64〜1.84)

 

ART妊娠   妊娠合併症なし    健常児出産       帝王切開

BMI<18.5  1.02(0.94〜1.11) 1.00(0.94〜1.06)  0.94(0.83〜1.05)

18.5〜25    〜(基準)     〜(基準)      〜(基準)

25〜30   0.76(0.72〜0.80) 0.95(0.92〜0.99) 1.16(1.10〜1.23)

30〜35   0.58(0.53〜0.64) 0.95(0.90〜0.99) 1.47(1.36〜1.58)

35〜40   0.54(0.46〜0.63) 0.95(0.88〜1.03) 1.36(1.21〜1.53)

BMI≧40.0  0.51(0.38〜0.68) 1.01(0.88〜1.16)  1.71(1.41〜2.08)

 

自然妊娠      早産        SGA*        LGA**

BMI<18.5  1.22(1.17〜1.28) 1.54(1.49〜1.59)  0.55(0.51〜0.59)

18.5〜25    〜(基準)     〜(基準)      〜(基準)

25〜30   1.30(1.26〜1.34) 1.01(0.98〜1.04)  1.15(1.12〜1.18)

30〜35   1.34(1.28〜1.41) 0.92(0.89〜0.96)  1.43(1.39〜1.48)

35〜40   1.35(1.25〜1.46) 0.82(0.76〜0.89)  1.76(1.67〜1.85)

BMI≧40.0  1.18(1.03〜1.34) 0.68(0.59〜0.78)  2.41(2.23〜2.60)

 

ART妊娠      早産        SGA*        LGA**

BMI<18.5  1.00(0.86〜1.16) 1.46(1.26〜1.69)  0.55(0.43〜0.70)

18.5〜25    〜(基準)     〜(基準)      〜(基準)

25〜30   1.41(1.29〜1.54) 1.06(0.96〜1.18)  1.14(1.04〜1.24)

30〜35   1.45(1.28〜1.64) 1.00(0.86〜1.17)  1.35(1.21〜1.51)

35〜40   1.32(1.09〜1.60) 1.15(0.92〜1.45)  1.65(1.40〜1.95)

BMI≧40.0  0.95(0.63〜1.42) 0.71(0.43〜1.18)  1.78(1.33〜2.38)

*SGA=在胎不当過小児(体重が在胎期間に対して10パーセンタイル未満)

**LGA=在胎不当過大児(体重が在胎期間に対して90パーセンタイル以上)

 

解説:ART治療も肥満も周産期リスクが増加することが知られています。本論文は、母体BMIと周産期予後(妊娠合併症・赤ちゃんの状態)について、国家規模のデータベースにより自然妊娠とART妊娠で比較したものであり、妊娠方法によらず、母体BMI増加に伴い、妊娠合併症、帝王切開、早産、LGAが有意に増加し、健常児出産が有意に低下することを示しています。

 

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BMIについては、下記の記事を参照してください。

2023.1.12「ART治療や母親の肥満とお子さんの健康状態の関連

2022.12.14「肥満マウスの食事療法で卵子の質が改善

2022.12.13「肥満で子宮内膜のタンパク質の発現パターンが変化

2022.12.12「肥満で卵胞液中のタンパク質の発現パターンが変化

2022.10.14「☆ライフスタイルによる体重減少の効果:メタアナリシス

2022.4.25「☆女性のBMIは異常胚とは無関係

2021.12.5「BMI増加で胚盤胞発生動態は?

2021.11.21「☆BMI高値で不育症リスクが増加!?

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