本論文は、人工授精の場合には、BMIが高くても出産率は低下しないことを示しています。
F&S Rep 2023; 4: 270(米国)DOI:https://doi.org/10.1016/j.xfre.2023.05.003
要約:2007〜2012年に人工授精(IUI)を実施した661名の女性(平均年齢31.9歳)1959周期を対象に、BMIと妊娠成績について後方視的検討を行いました。BMI 18.5~24.9を基準として算出したオッズ比(95%信頼区間)は下記の通り(有意差の見られた項目を赤字表示)。
BMI 妊娠判定陽性率 臨床妊娠率 出産率
<18.5 0.74(0.27~2.04) 0.76(0.23~2.54) 0.83(0.14~4.89)
18.5~24.9 基準 基準 基準
25.0~29.9 1.50(1.12~2.02) 1.51(1.07~2.14) 1.34(0.84~2.14)
30.0~34.9 1.33(0.89~1.99) 1.20(0.72~2.00) 0.89(0.43~1.84)
35.0~39.9 1.10(0.65~1.87) 0.99(0.50~1.96) 0.94(0.42~2.12)
≧ 40.0 1.70(1.12~2.59) 1.18(0.63~2.20) 1.41(0.66~3.05)
臨床妊娠率
BMI 排卵障害あり 排卵障害なし
<18.5 1.17(0.22~6.17) 0.52(0.12~2.26)
18.5~24.9 基準 基準
25.0~29.9 1.52(0.86〜2.67) 1.47(0.95~2.28)
≧ 30.0 0.57(0.31〜1.07) 1.96(1.19〜3.24)
解説:米国では、近年肥満が増加しています(2000年30.0%、2018年42.4%)。世界保健機関(WHO)は、BMIを次のように定義しています:やせ(<18.5)、正常体重(18.5~24.9)、過体重(25.0~29.9)、肥満度 I(30.0~34.9)、肥満度 II(35.0~39.9)、肥満度 III(≧ 40.0)。 肥満が女性の妊孕性を妨げることがよく知られており、過体重は生理不順とも関連しています。BMI≧ 30の女性では、BMIが正常な女性と比べ不妊症のリスクが最大3倍高くなると報告されています。肥満女性はART治療(体外受精、顕微授精)による妊娠率と出産率が低下します。しかし、肥満女性における人工授精の妊娠率や出産率に関する研究はほとんどありません。このような背景の元に本論文の研究が行われ、人工授精の場合には、BMIが高くても出産率は低下しないことを示しています。特に排卵障害のない女性では、むしろ臨床妊娠率が有意に高くなっていました。しかし、結論を導くためには前方視的検討が必要であるとともに、BMIのみならずウエストヒップ比や体脂肪量を含めた検討も必要です。
BMIについては、下記の記事を参照してください。
2023.6.21「☆女性のBMIと年齢と妊娠成績の関係」
2023.4.19「☆BMIと妊娠予後」
2023.3.29「☆PCOSにおけるBMIと体重減少の効果」
2023.3.3「☆母体BMIと周産期予後:自然妊娠 vs. ART妊娠」
2023.1.12「ART治療や母親の肥満とお子さんの健康状態の関連」
2022.12.14「肥満マウスの食事療法で卵子の質が改善」
2022.12.13「肥満で子宮内膜のタンパク質の発現パターンが変化」
2022.12.12「肥満で卵胞液中のタンパク質の発現パターンが変化」
2022.10.14「☆ライフスタイルによる体重減少の効果:メタアナリシス」
2022.4.25「☆女性のBMIは異常胚とは無関係」
2021.12.5「BMI増加で胚盤胞発生動態は?」
2021.11.21「☆BMI高値で不育症リスクが増加!?」
2021.9.28「BMI高値は受精卵の染色体異常とは無関係」
2021.7.21「☆女性の肥満で流産率が増加」
2021.5.5「女性のBMIは卵子に影響?着床に影響?」