ART治療中の女性の体重の増減と培養成績 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、ART(体外受精、顕微授精)治療中の女性の体重の増減と培養成績に関する検討です。

 

Hum Reprod 2024; 39: 93(米国)doi: 10.1093/humrep/dead244

要約:2014〜2020年少なくとも2回のART治療を受けた961人の女性を対象に、体重変化と採卵結果の関連について後方視的に検討しました。最初の採卵から1年以内に体重増加がみられた607名と体重減少がみられた354名に分け、多変量一般化推定方程式(GEE)一般化線形混合モデル(GLMM)を用いて評価しました。体重減少群では、体重減少と採卵数、成熟卵数、受精率、胚盤胞発生率のいずれにも有意な関連はありませんでした。体重増加群では、GEEモデルとGLMMモデルともに、体重増加と採卵数、成熟卵数、受精率の間にわずかながらも有意な正の相関を認めました。しかし、体重増加と胚盤胞発生率との間には有意な関連を認めませんでした。

 

解説:肥満(BMI高値)により排卵障害や妊娠率低下が生じることはよく知られています。しかし、BMIは対象者のある時点での状態を示しているだけであり、体重変化の影響を調査した研究はありませんでした。本論文は、このような背景の元に行われた研究であり、体重の増減のみにフォーカスし、BMIのカットオフ値は設けていません。その結果、体重の増減は臨床的にそれほど重要ではないことを示しています。したがって「採卵前にまず減量から」を推奨するのではなく、「加齢による悪影響を重視し採卵を先行させる」のが望ましいです。しかし、肥満(BMI高値)では周産期リスクが高くなるため、体重減少後に胚移植が行えるように、全胚凍結が推奨されます。つまり、「採卵→減量→移植」という図式です。ただし、本研究は、後方視的検討で刺激法の情報がないため交絡因子の除外ができていません。また、エンドポイントが培養成績のみであり、妊娠成績でないこともマイナスポイントになります。