妊孕性温存:レビュー | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

今月のFertil Steril誌の特集は妊孕性温存に関するレビューです。


①Fertil Steril 2024; 121: 551(イタリア)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.01.010

要約:米国だけで毎年93万人以上の女性が癌と診断されており、その約6%が生殖年齢の女性です。癌治療開始前の妊孕性温存はひとつの選択肢であり、ランダムスタート法やデュオ刺激で卵巣刺激を行い、ガラス化法で卵子凍結します。私たちを取り巻く社会は急速に変化しており、不妊は深刻な社会的影響を伴う状態です。私たちはこれらの変化に適応し、夫婦の健康を守りながら生殖能力を維持する必要があります。

 

②Fertil Steril 2024; 121: 553(フランス、カンボジア)doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.01.004

要約:癌と診断された女性における妊孕性温存への関心が高まったのは30年前からです。採卵は通常、手術と抗癌化学療法の間に実施されますが、腫瘍がまだ存在している状態で卵巣刺激を行うことに消極的な方もおられます。そのような場合には、IVM(未熟卵体外成熟培養法)が行われますが、成績は必ずしも満足のいくものではありません。社会的卵子凍結は、未婚女性や子宮内膜症の女性で行われます。何個凍結すれば良いかについては採卵時の女性の年齢に依存し、例えば37歳までであれば1人のお子さんの誕生におよそ15~20個の卵子が必要です。

 

③Fertil Steril 2024; 121: 555(イタリア、スペイン、アルゼンチン)doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.01.003

要約:不妊は社会的に大きな影響を与える疾患です。医学的理由や社会的理由による妊孕性温存は、近年世界中の多くの国で増加していますが、必ずしも一般の方へは周知されていません。妊孕性温存のための卵子凍結は、もはや現実的な選択であり、その啓蒙活動が必要です。

 

解説:少子化の現代において、妊孕性温存は大変重要な医学的対応策です。精子凍結はもちろんですが、卵子凍結も技術的に全く問題ないものになっています。卵子は生涯一度しか作られず、その後は次第に老化しながら減っていくものであるとの認識を全ての女性が共有して欲しいと思います。人それぞれ、いろいろな事情があるかと思いますが、結婚や出産が先送りとなっても問題ないように準備を進めておくことをお勧めします。

 

下記の記事を参照してください。

2022.11.25「☆若年の卵子凍結と高齢の採卵PGTどちらが良い?

2017.3.26「社会的卵子凍結の背景にあるもの

2016.7.10「IVM+卵子凍結に必要なAMHとAFCのレベルは?

2015.6.24「卵子凍結に適切な年齢は?

2013.10.7「☆☆卵子凍結はどうやる?