ART改善策に関するレビュー | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

ART改善策に関するレビューをご紹介します。

 

①Fertil Steril 2024; 121: 715(オーストラリア)doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.02.042

要約:診断、予後、治療の3つが、古代ヒポクラテス医学の原則として確立されています。診断ツールと知識が限られていて治療の選択肢がなかったとき、医師は自らの経験、病歴、観察を通じて予後を診断することに多くの時間を費やしました。病気の原因が明らかになり、新しい治療法が登場すると、予後はあまり注目されなくなりました。治療法がますます有効になるにつれて、診断さえも医師の考えから離れるかもしれません。生殖医療の現場では、経験や専門知識を活用し、新しい技術が開発されるたびに更なる改善に努めています。しかし、その不確実性により、成功の可能性について異なる見解が生じることが少なくありません。そのため、新しい技術革新が数多く行われているにもかかわらず、それを有効に活用できていないのかも知れません。発生学では、新しい培養条件、画像処理の改善、人工知能の活用、胚の遺伝子検査、自動化など、多くの革新が起こっています。新しい技術は、一部の人にとっては重要ですが、大多数の方にとっては重要ではありません。だからこそ、より信頼性の高い診断ツールと予後ツールを入手する必要があります。

 

②Fertil Steril 2024; 121: 717(オーストラリア)doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.02.044

要約:原因不明不妊の診断は、不妊原因と自然妊娠の可能性の両者に不確実性を有するため、ジレンマを伴います。全員をすぐに治療すると過剰治療になります。従って、自然妊娠の可能性を推定する予測モデルは、治療方針の決定に役立ちます。原因不明不妊で自然妊娠を予測する25論文の予測モデルを分析したところ、最大規模の予測モデルはHunaultモデルで、女性年齢、不妊期間、妊娠歴、精子運動率から計算します。この予測式に基づき、1年で30%以上の妊娠率と計算された方を妊娠予後良好群とし、30%未満の方を妊娠予後不良群とします。妊娠予後良好群では人工授精実施の有無によりその後半年間の妊娠成績が変わりません(つまり人工授精不要)。しかし、妊娠予後不良群はすぐに人工授精を実施するのが良いことが報告されています。人工授精は3〜6周期とし、妊娠成立がなければART治療(体外受精、顕微授精)にステップアップします。

 

下記の記事を参照してください。

2023.2.4「☆自然妊娠率予測モデルで妊娠予後不良群には人工授精が良い

2018.12.23「自然妊娠率の予測 その2

2017.3.12「自然妊娠率の予測

 

③Fertil Steril 2024; 121: 730(ニュージーランド)doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.01.005

要約:医学における臨床検査には、診断検査と予後検査があります。PGT-Aなど胚の評価は、診断と予後の両方の意味を持ちます。一方、着床率の予後を評価するためには、年齢やBMIなど他の予後因子と組み合わせる必要があります。胚評価のゴールドスタンダードである手動グレーディングは主観と変動を伴いますが、タイムラプスやAIによる胚選択を実施してもなお手動による胚選択と比べ予後を向上できていません。今後普及する可能性がある、リキッドバイオプシー、蛍光寿命画像顕微鏡、ハイパースペクトル顕微鏡などに期待したいです。

 

解説:ART改善策と題したレビューですが、今ひとつパッとしない内容になっています。それだけ不明な部分が多いということです。