奥田 英朗
イン・ザ・プール

ひさしぶりに、大笑いした小説だ。


それにしても、人の不幸を笑ってはいけないが、何れも劣らぬ、神経症を患ったばかりに、「医学博士・伊良部一郎」にあってしまう不幸に遭遇する。この不幸は、必ずしも本当な不幸ではなく、幸せな不幸だろう。

でも、まともな治療でよくなる保障は全くない。結果オーライとしかいえない治療方法だ。

いきなり、総合病院地下にある診察室に入ると、、伊良部先生と茶髪の看護士マユミちゃんが待ち構えている。面談もそこそこ、いきなりビタミン注射だ。これは痛そうだが、伊良部先生がする唯一の治療だろう。


相談者もユニーク。編集者、営業マン、コンパニオン、高校生、ルポライターなど。原因もひとぞれぞれだ。でも、一度伊良部先生の顔を見ると、いつのまにか伊良部先生の顔を拝まずにはいられなくなる。


でも、伊良部先生は、本気で病気を直そうとする気があるのかを疑わせながら、相談者の悩みに自らはまっていく姿が、おかしく笑える。相談者も、その先生の勢いに負けて、いつのまにかおかしくなり、気がつかないうちに直っていることもあるが、ますます悪くなって、笑うに笑えない人も出てくる。


「イン・ザ・プール」は、こころの底から笑える小説だ。