川上 弘美
センセイの鞄

川上弘美」とい小説家の魅力が存分の発揮されたベストセラー。

先生」でもなく、「せんせい」でもなく、カタカナで「センセイ」だ。

この出だしは、実にさりげなく、読書を引き込んでいく。

確かに、相手の名前がわからない時、「センセイ」と読んでごまかすことは良くあるし、「センセイ」と呼ばれて気分が悪い人は、いないんだけど、どこか、軽くからかわれている気分にもなる。でも、学校の先生の場合は、「センセイ」と呼び慣れているから、そんなに抵抗がないのだろう。


ツキコさんも魅力的に描かれる。一人で居酒屋にきて、注文するメニューが、「まぐろ納豆、蓮根のきんぴら、塩らっきょう」だ。まさに、酒の肴じゃないか。歳は37歳。「今年いっぱいはまだ三十七です。」

センセイとは30と少し離れているらしい。


実は、最初の章「月と電池」にこういう紹介が書かれているのに途中では、忘れてしまい、センセイとツキコさんの歳を想像してしまう。


二人の”おつきあい”なんだかほのぼのしい。ゆっくりした時間、それでいて、限られている時間。そうした時間が、読む人にホンファカした気分を味あわせてくれる。人生は歳をとっても、素敵な恋が出来るんだというメッセージ、希望みたいな気分を読書にさせてくれる。


センセイの鞄が小説の随所に登場して、小説のまさに主人公のような働きを見せてる。センセイと常に行動する鞄は、まさにセンセイの分身であり、センセイとツキコさんの”お付き合い”の歴史を語ってくれる存在なのだろう。


小説の中に出てくる「伊良子 清白」の孔雀船―詩集 」の詩は、読んでみたくなった。センセイが詩にどんな思いをこめていたのかをもっと知りたくなったのだろう。