橋まで押し戻された。
ラリホーで眠らせたヒドラの、頭を二つは落としたが、他のは耐性があるらしい。『普通のヒドラ』より、強大なのだろう……。
呪文の詠唱は、駆けながら。インターバル。防ぎきれない炎。薙ぎ払われて・・・歪んだ盾は、原形をとどめていない。
振り絞ったが、状況は不利だった。乱れる呼吸。
だが、これ以上退がるわけにはいかない。ベホマの詠唱を試み、駆けた。
突破しなければ、生きられない。

「ー」

アークマージをさがらせ、バラモスらも黙るように命じた。
魔物の同士討ちが発生源で、満たされる憎しみは、人間から吸い上げている純粋なものよりも遥かに、質が劣る。
質の良いものが、精製されないと苛立った。
*「うえから……。 ちからが みたされてきたのか……?
しかも、上質だ。
ついさっき、バラモスが何か仕込みをしたような口ぶりだったが、まさか…な。
改めて暗視するまでもない。見えない磁場に注がれてくる憎しみが、快い。
目を閉じた。
埋設された配列。禁じられた闇の世界から、一握りのものに伝えられ、継ぐもの。正確な知識に・・・、しるところすべてに裏打ちされた磁場の配列は、力の増幅と回復を可能としてくれる。
好みとしては、もっと強めの、濃い悲壮が欲しいが。
何かが全身を駆け巡るのを感じていた。

「ー」

仲間割れに見えた。
橋の向こうで煌めくタイマンの風景。
珍しくて眺めた。色違いのメカ鈴凛ちゃんかと見間違いそうだった。
殺人鬼……と、ヒドラ族、か。
どちらも、死に物狂いな様子だということが、見てとれた。殺気と、熱。
勢いよく吐き出された炎に巻かれ、それでもなお、駆け出して斧を振るう…覆面姿の殺人鬼。燻られて、傷だらけだ。血を流し過ぎると、危ない。
双頭になってしまったが、地上に対して有利な攻防……空中戦を保っているヒドラ族。実力的にも、殺人鬼よりきっと上手だろうが、油断したにちがいない。
何かの飛沫が飛び散った跡が、まだ繰り広げられている戦闘の烈しさを映す。
膠着しているところに、介入するのは危険すぎる。
「ボクらも…あのレベルな時が、あったよね?」←超小声
「ええ…♪」←超小声
「まぁ今でこそ、スマートに戦えマス!」←超小声
「うん…。どっちが、勝つかな」←超小声


決着が、ついたようだ。

ヨロヨロと、赤いヒドラが飛び去る。
「平気?」
「一体、何があったデスか?」
覆面姿のほうが、たおされていた。


続く