*そのほうこうには  だれも  いない*-100103_2235~010001.jpg
*「わたしは…… アリアハンの…… オルテ…ガ……。
「あ、あれぇ?今オルテガって」
「後だよ、そんなの!…しゃべらなくていい。今、回復呪文を……」
「しっかりして下さい!」
オルテガ。聞こえたが、聞きたくない。火傷が血止めになっているかどうか、ベホマでも、反動があるし、危ないところだ。
「ベホイミ」
「ベホイミ!」
「ベホイミ」

「あ、あれ?」
「何でだ?」
*「きかぬのだ……。
「どうして!?」
*「みずから となえた じゅもんでなければ……。
 なぜなら……わたしは はんぶん まもの だからな……。 すまない たびのひとよ。
「チェキッ!?」
「えっ……」
それも後だよ!!馬鹿な。
「薬草でもあれば…」
今は誰も、持ってない。
*「いいんだ……。
「これを持てますか!?ちょっぴりでも…翳すと……」
そうか!力の盾、かれんちゃん。これなら…どう?
視線だけが、動く。哀しげな瞳が二つ。躯の壊れた様子を物語る。もう動けない?無理だ?
そんなんダメだ!もう少しだけ、待ってくれ。
*「きいてくれ。
「【せかいじゅのは】があったよね?」
「あ、うん!」
アークマージの忘れ物を、使うなら今しか、ないだろう。
*「きいて…くれ。
「……」
「あに……さん?」
聞こえないふりをしたかった。
やめてくれ。聞きたくない。ダメだダメだダメだ!
諦めるな!まだ全部試させてくれよ!
自分が何も出来ないなんて、思わされたくない。
もしかすると、どうしようもできない。
そんな…、馬鹿なことがあってたまるか!

「ー」
*そのほうこうには  だれも  いない*-100103_2235~030001.jpg
「どうして…だよ?」
冷静に勝ち負けを見ていただけの、臆病な自分に。
自虐めいた、自責の念が、あにの頭を巡る。
捜していた人を、目の前で、失うかもしれないということ。
差し迫るいのちのタイムリミット。
救えない、いのちがあるということ。
目の前のことには関係ない。恥を知らないもののように、心音が早鐘のように打たれ、高鳴る。
この世界の肉親に、親近感も、愛情も、何も無かった。
冷めていただけの、自分。
あにに、四分の一は魔物の血が流れているということ。馬鹿な!?
それよりも、この状況って、どうして?何ができた?
目の前。
まだだよね…?まだだよね!?
「落ち着いてよ…あにさん。お願いだから!!」
膝が、震えた。


続く