あにが【ベホマズン】を詠唱し始めていた。
鎧兜は"耐える"だろうが、肝心要の肉体が耐え切れないだろう。
耐え切れない・・・瀕死の状態で振り絞ると、眠気に襲われてしまうし、防御も甘くなる。
ベホマズンの効果があらわれ、急激に、冷えた体内に血が巡るが、体の芯に残る寒気を振り払えない。幾度となく、駆けていた。人体での急所を、ゾーマの水月を狙う。
かれんのベホマラーが遅れている。攻めた後に食らう反撃のダメージを回復するには、遅いほうが都合よいが……瀕死だと、詠唱も間に合っていない。
衛が、回復呪文を詠唱できるはずも無い。代わってあげられない。
だから、攻めるしか無い。貫いた。手応え。
光のようなものを浴びてから、力が入らないような感覚を……ゾーマへの手応えで、捩じ伏せた。
考えても、仕方ない。
踏み込んで、翻った。至近距離。何度でも、水月を狙う。

「ー」

何かを、抜かれたような気がした。
初めて詠唱したベホマズンの疲れとは違っている。
斬りつけた時の、軽い手応えに違和感を覚えた。おかしい。ゾーマに何をされたのだろうか。みんなの髪型が初期のものに戻った。なぜ?疑問ばかりが頭に浮かぶ。光に襲われてから、けだるいような感覚の中に居る。
だが、戦うことを止めるわけにはいかない。相手はドSゾーマなのだ。
まもるに続いて、駆けた。

「ー」

生きているだけで、高鳴る。
あにのベホマズンがなければ、斃されていた。久々に、視界が緑色になった。
水鏡の盾を構え直した。
HPが、またはMPが尽きると、自分は何もできなくなる。
ベホマラーを詠唱せずに済んだが、防御の構えを解かなかった。そうしなければ、いけないような気がした。
ゾーマが放った光のシャワー・・・波動のようなものを、見極めることができるだろうか。
体が、重い。

「ー」

あにと並び、駆けた。
隼の剣での、連撃の僅かな手応え。
腕力の差だろうか。四葉が、何度攻めても、有効打ではないような……不安感を抱いてしまう。手応えが、無い。バイキルトが漲っている筈なのに。
前衛と後衛を繋ぐ隊形。
一体何をされたのだろう。
建て直すことができるか。パーティを、整えたい。
「もう一度バイキルトしマス!」
「一度、防御を!」
「…攻めるよ!」
「またマヒャドがくるよ!」
掛け声は盛んだが、まとまりを欠いた。
悠長に話し合えないのは、緊迫感と焦りかもしれない。
どうにか、振り払いたい。


続く