否応なしに高鳴る。
美しい女の子をぶっ叩く・・・という、Sな訓練に、あには興奮した。
この棒切れで当てるというか叩く、……よし。先ずはそれでやってみるか。
距離を測り、駆け出す。
右手から振り下ろした。手応え。…無し。

「何処を狙ったのかな……」
「あ、肩。じゃなくて…盾の辺り」
「…狙いは悪くない…………さぁ……もう一度。
……私も、動くから…………ね」

千影が、五歩ほど後ろに下がる。
立ち止まった、瞬間を狙って駆け出す。横に払う。手応え、無し。

「…………振り回し過ぎだよ……」

盾で肩を押される。視線が近い。

「いやー、…ハハハ」
「それじゃ当たらない…………当たらないと、悔しいだろう?」
「……悔しいよ」
「ふむ……不慣れな武器だからか、……接近戦にしよう」
「じゃ、走らなくてもいいの?」
「ふふ……いずれにせよ……走らなくては…………ならなくなるけどね……」
「え?」
「……始めよう。何処を狙ってきても……私はそれを……盾で防ぐ…………」
「打ち込み?」
「……戦闘訓練だよ……つべこべ言わずに……」
「はっ、はいぃ!」

「ー」

没頭した。
当てさせてもらっている……。そんな意識が全身を熱くさせる。
一撃目がかわされたとしても、二撃目を出せる態勢にしないと、千影からの反撃を貰う。攻撃を潰されてしまう。
革製の盾で弾かれ、押し返される。同じことを繰り返す。
まただ…。
反撃を盾で防げても、衝撃は左腕に残る。
攻め続けていたかった。

「攻撃は…………最大の防御……」

棒切れを打ち込む度に千影に囁かれた。
繰り返すしかない。
袈裟切りからの横薙ぎ、ずっと反復していた。
当たらない悔しさを、噛み締めた。
呼吸は乱れ、荒い。
盾で防ぐことに失敗する。動き続けてばかりも居られない。限界か、汗と考えが巡る。
攻撃は最大の防御とは、嘘だろう。防御は防御だ。
鋭い一撃を、盾で受け損なった肩も背中も、痛みと汗で滲む。

「押すように前へ……と言ったろう…………?盾で防ぐ時もそうだろう……。
疲れたかい…………え?……反撃が…………怖い?……ふむ、…………悪くない」

短い休憩を訴える前に、千影が柔らかく静かに囁く。あにの乱れた息で聞こえそうに無い声。

「どうしろってんだ」

叫び出しそうになるが、叫ぶだけ余計に疲れる。
甲板に顔を向けると吐きそうだ。千影の居る方向を睨みつけた。



続く