不動の構え。
あにの疲労回復を千影は待っていた。
抗う視線を強く放ってくる。

 やすませろ
 なんで こんなことを
 あたらない ちっくしょう
 かわいいかおして えげつない
 ねむくなってきた

汲み取り易い視線は興味深い。次はどんな指南をしてやろうか。
……面白い。微笑みがこぼれた。
それを合図に駆け出してくる。悠々と視界に映る。素早くないあにの連撃を、丁寧に盾で受けてやる。左、横。
右手の【ひのきのぼう】で突く。盾の下。腹は……防げるかな。
何かが巻き付いた。引っ張られ、右腕から身体が傾く。
二撃目の虚。そのまま身体を横に廻した。千影の右半身への肘か、背面への打撃。何とか一撃を。

「ー」

押し退けられた。
熱い汗が止まらない。
至近距離から試みた攻撃を、読まれた。

「随分と…………危ないことを…………するね」

伏せていた。あにの勇者装……マントに檜の棒を巻き込まれ、崩された態勢から、肘鉄を際どくかわせた。
引っ張られた右腕が少し痛む。
連撃を空振らせるには、咄嗟に伏せるしか無かった。
鋭い一撃を秘めていた。

「くっ……そぉ・・・」

倒れ込み、膝を折るあに。やはり、振り絞った様子が容易く見て取れた。詠唱を開始した。
もう少し、振り絞れるだろうか…。願わくば、一歩先へ。まだ、先へ。

「…【メラ】」
「…………?」
「あに…………くん?…………見えるかい」
「……何……?」

火の玉。千影の手元で揺らめく。

「でで、出たぁ!?」
「盾を…………こちらに向けて…………」
「っ言われなくても!」

やっている。堅い甲板に、両膝立ちで構えた。
低めに狙う。指先に宿した火の玉・・・メラを放つ。
止めてくれ。今さら言えそうにはない。
Sだ。すげえSだ。

「………熱っち!」
「すまない…………
 これが……攻撃呪文のひとつ…………キミも…………あにくんも…………詠唱できた呪文……さ」
「/こ/ろ/す/き/か/!」

喉まで出かかる。危険だ。おまけに眠い!

「そして…………【ホイミ】……これは…………回復呪文のひとつ…………これも
 思い出せないの…………かい?」
「ホイミィ?」
「…………ホイミ」
「ホイミ…」

*あにはホイミをとなえてみた! しかし なにもおこらなかった!

「まぁ…………呪文は…………時間を要する…………か」
「……休ませて?」
「ふふ…………仕方ない…………な」



続く