ゆっくりと、身を起こした。
まだ、揺れ動く。
広い甲板の感触。
痺れから目覚めたばかりのように、全身が…けだるい。
空と海しか映らない…。いつの間にか、船に揺られている。
最後の記憶は、アリアハンからのルーラだった。
……失神したのかもしれない。
舵を操る後ろ姿に声をかけた。

「…千影……ちゃん。だよ…ね?」
「…………」

強く、射抜かれた。何て目をするんだ。もしや影千代なのか?

「…………私だよ……。……あにくんに……呪文のコツを教えるよ…………時間が、無いんだ…………」
「……」

威圧感。黙って頷いた。口を挟めない。

「強く……念じて…………言霊を……自分のものにして……願い、……囁き……祈るんだ……。
 ラリホーを……詠唱した時は…………あにくん自らが……強く……、眠りたいと…………そう……願ったんだ……ろう……?」
「あぁ、そっか。そういえば……」

何て単純明解。

「……ルーラは、……難しいの…………かい?」
「今は…、ちょっと」

セルフ拷問。いやだ。

「ふむ……ブックを、……見せてくれない……かい?」
「いいよ」
「確認しよう……。
 ラリホーしか、記載されていないね…………」
「ん?あれ?」

空白に書き込んだ筈の文字が消えている。

「どうか……したのかい?
 特別に、私が記してあげるよ……。……消えてしまう前に……、刻まれていると……いいが……」

ホイミ、ルーラ、【リレミト】、【トヘロス】、【マホトーン】、【ニフラム】、メラ、ギラ、ベギラマ、アストロン・・・。

「……アリアハンに着くまで…………戦闘訓練だね……。時間が……惜しい……」
「…」
「安心していいよ…………今度こそ……忘れ物を、取りに行く…………よ」

ブックを手渡しながら、涼やかな視線を送る千影。
NOと言えない勇者・あに。
ルーラ……力無く呟いてみたが、結果は・・・。

「ー」

鉄の槍同士での立ち合い。
刃を引いた穂先を千影に向けたまま、低い姿勢での対峙が続く。先の訓練の経験から、攻撃も防御も、低い位置から備える方が有利に思えた。
新たな装備が、間違いなく重い。盾まで重くなってきたら、槍を両手では扱えなくなりそうだ。

「かわされたら、……崩れる…………だろう?
 その膝の角度……では……いけない……な……。もっと……柔らかく……」

S指南。
……もっと早く、アリアハンに到着しねぇものか。



続く