近~中距離の武器。
振り回すだけで、駆けなくても済む予感がしていた。
二度目の戦闘訓練。
油断している訳でもない。あにの全身に漲ってゆく緊張。
槍の重さを確かめるように軽く素振りしたのち、繰り出した突きからの連撃、打ち払われた。
横に回り込もうと踏み込んだ刹那。千影に槍を掴まれた。

「うっ!?」
「さぁ……どうするん……だい?手を離したら…………私に槍を奪われるよ……。
 そうしたら……素手で、槍に……私に……立ち向かえるの…………かい……?
 もし、私が……物凄い怪力を発揮したら…………槍ごとあにくんを……持ち上げてしまうかも……ね。
 両手でしっかり……掴んでいるね…………私の片手から……攻撃呪文が……繰り出されたら……防げるの……かな?
 ふふ……あにくんが……一気に…………不利になるね……。ホイミも…………『まだ』忘れているのだから……」

蹴りか、頭突き。

「悪くは……無い。ベターな戦術……だね…………。
 ただし…………一対一なら……ね」
「……え」
「一対複数だと……囲まれて…………*んでしまう……よ」
「……どうすれば?」
「ふふ…………間合いだよ。……掴まれない……距離を…………保てば……いいの……だろう?
 おや……?もう…………忘れてしまったの……かい?武器を、手放しては……ならない…………と、影千代が……囁いた……あの、刻のことを…………」

はっとした。
何故、千影が?それを見聞していたかのように、何故、語りかけて…、あにを誘うのか。
考えないようにしていた…影千代の存在への興味が、再び湧きそうになる。
拡がるな、塞がれ、僕よ。
湧いた出来心を、必死に鎮める。罠に、陥るな。震えても、揺れるな。
両腕に力をこめた。槍を掴まれたまま、思考を切り替えたい。
この視線を、跳ね返すんだ。
どうする?
槍を遣る足運びを間違えられない。そうだ、立ち位置も。うわぁ…脚も緊張してきた。

「携行している……ナイフで…………槍に立ち向かう、……なんて言わないから……嬉しいよ…………」

片手で槍を引き寄せられる。汗ばむ掌。堪えた。
ナイフ対槍は、…ナイフが不利でしょ。/シ/グ/ル/イ/握/り/でも、不利だろうな…。後にも先にも、試そうとは思えない。

「槍も……刃以外の部分は…………鉄ではない……から……ね。
 時には…………容易く、折れる……。
 ふふ…………試して……みるかい……?」




続く