他の妹らと会わせることなく、ランシールに送り出した。
実地訓練と称して、あに一人を向かわせ、アリアハンで待機することにした。
幾度と無く繰り返された別離に似ていた。その刻が満ちるにつれ、張り裂けそうなものが千影の中で渦巻くが、おもてには出せない。
あにが孤独に振り絞る刻である。独り立ち…その場に居合わせたり、肩代わりするとなると、あにの運命を大きく狂わす。待望していた別離。
事細かに記した『ランシール神殿~アリアハン間移動 手順書』も、【さいごのかぎ】も、春歌が縫い上げた革手袋も必要なものを全てあにに渡してある。
託した。という思いが千影には無かった。あにが右往左往する過程は、あににのみ大事なことであって、結果どうあれ千影は抗えない。
長い眠りから目覚めると驚く程素直に、千影の指南や囁きを、受け容れていた。良い方向の結果しか予測できない。あにが、神殿地下から生還しても、半ばで斃れても同じことだった。
陽光の中、舞い落ちてくるキメラの羽を眺めた。

「ー」

行列も無く、空いていた。
太い鉄格子の鍵を外すと、赤色煉瓦の石畳に豪華な絨毯が敷かれ、先に『巡礼受付↑こちら』という看板を確認出来た。手順書には『次に、アリアハンへ…船で…向かうんだ』とある。
受付の老人に はい とだけ答え、背を向けた。森林を引き返し、船に乗り込む。

「……アリアハン大陸へは……昼前には……着くよ……」
「ありがとう。『次に、かほちゃんを…伴って…ランシールに…船で…向かうんだ』かぁ…。
 今日もずっと海の上かなぁ?あっ、と、ごめんね…影千代ちゃん」
「……いいんだ……最近……不眠症で……ね。あにくんこそ……平気なの……かい?」
「…僕が、なにか?」
「ふふ……この船倉部……耐えられるの……かな?長居すると……*ねるよ……」
「ん?今ね、何だか気持ちが燃えてるから何も不安は無いよ。
 何だか、わくわくしてるんだ。物凄く」

筋肉疲労から引き起こす震えはあるが。

「……そう……かい。
 ふふ……『ちゃん付け』は、……何だか……恥ずかしい……な……こんな風に、……二人きりだと……特に……、……ね……。あっ……、その……表情……堪らない……な……ふふっ……」

捩れS。
赤面した。
何てことを、囁くんだ。
接岸作業を影千代の指示で手伝うと、颯爽と城下街を目指すあに。動き回ることで、いずれ訪れるであろう不安感を、寄せつけたくなかった。



続く