体調が上向いた。ように感じた。
空腹感も、飢餓感が無くなったからなのか、さざ波のように絶えずある悪寒と、死を跨ぐような眠気、そして引きずるような重い疲労が、いつしか全身から消え去っていた。風邪気味だったのかもしれない。風呂事情が原因だろうか。
晴れやかな心持ちを覚え・・・・・・嘘だ。覚えたのは怒り、あにの全身に熱が漲る。
漲るが、大きな不安を抱え続けていた。腕の中の、ホイミスライムの反応は無かった。
吹雪のダメージで、明らかに、弱っていた。お節介なホイミを、自ら詠唱しようとしない。何をしている!なんてことだ!氷塊を取り除けなかった。服や革手袋に付着した体液が、乾くこと無く、まだぬめっている。
抱えたいのち。他のものに託すか、置き去りにしても構わないだろうか。
    ・・・
ホイミも出ない。悔しいけれど…、預けられた不思議な同行者に、もう関与したくない。先を急ぎたい。
震えていた。手助けを欲するのは、魔物・モンスターらの間柄で、・・・やってほしい。僕、ニンゲン。でも…せめて言葉が通じれば、なァ。

 ……連れて…逃げてよ……

幻聴だ。聞こえない。

悩み抜く。階下への階段に腰掛けた。全身の熱が、尻から冷えてゆく。
手順書を拡げながら、ぬめりを床にこすりつけていると、何かが這うような音がしている。まだ、遠い。
知るものか。『見捨てないでね…♪』と、何度も何度も懇願されるのには、うんざりしていた。愛らしいと覚えたことも、今は恥じる。

だって…懇願した方が、向こうからアッサリと消えてますからね!
アレは果たしてドジなのか!?天然ボケなのか!?
*******なのか!
(↑アナタダケノ ナマエヲ ツケテ)

そうだった。僕は既に、見捨てるという選択をしてきた。誰かの望みは、叶えられない。ましてや神殿地下内部……誰にも、見られず、咎められることなど、あるものか。前へ、進むためなのだ。
・・・そうしたい。

*「……どうかしたのか?

不意に声をかけられた。背後。慌てて手順書をしまい込む。頭に刻み込めたのは、
⑥ 神殿に納められている、あるものを借りてくる⇒許可は取ってあるよ……。だった。
声の方向に、槍を向けないだけでも、冷静だったろうが、明らかに警戒をしていなかった。
声を飛ばす。

「つ、連れが吹雪で弱りまして…」

頭脳フル回転。

*「ふぶき……? ああ アイツのしわざか?

声が近付いてくる。



続く