最深部への階段。
ハンターフライとの交渉に成功し、光る石が運ばれた場所を目指した。ゆっくりと歩き出す。
成る程…目立つものだ。闇に目を凝らし、慣れると。暗いところからだと、明るいものは見やすい。光あるところを目指すとなると、余計に。…視力とかも、関係しそうだろうけど。

「下に、トイレってある?」
*「……ナニ?
 ????? ツキアタリヲ ヒダリ……。 トコロデ オマエハ ヤハリ ニンゲンカ?
「…悪かったね」

色々と…。あとは、もういい。願わくば、今後遭遇しないことを。

*「ハジメカラ……。 マアイイ……。 ヤミダケデナク コドク ト ゼツボウ ヲ ミカタニシロヨ。
 オマエハ ヒトリダ

「覚えておくよ。じゃ僕、トイレ行きたいから」

あばよ。その他は、言うまい。羽音が暫く耳に残った。

「ー」

階段を、慎重に下りる。
段差が無くなる迄、片足ずつ、探りながら……
着地。息を吐く。トイレ、トイレと呟きながら……。立ち止まり、汗でベタベタする全身で行き先を探る。突き当たりを、左、か。
振り返ると、階段のまわりにあった薄ぼんやりした明かりが、遠のいた。去ったか…暗闇に包まれた。
見通しのきかない、進行。最深部の物音。湿気。匂い。……どうしようもない匂い。
船倉部と、似たようなもの…か。
突き出した槍が堅いものに当たる。感触。
触れた。壁か。えーと確か、突き当たりを左……トイレは。
何とも形容しがたい、このどうしようもない匂いが、漂わない素敵な…空間。水洗だといいな…………。
壁づたいに歩きながら、妄想を膨らませてゆく。
静かに、吸い込んだ。

「ー」

巡礼地とされるところに漂うものが、何かわからない。絶えず、渦巻いている。
いやな感じではないが、これは、執念のようなもの?不快なくらい、肌を打つ。
それに抗うことも、拒絶するつもりは無い。纏わり付かず、そのまま漂っていて下さい。大丈夫、僕も同じだから。執念深いところ。
最深部に満たされている空気を、乱さないように、同調を試みる。はぁっと息を吐く。じりっ…と、半歩を踏み出す。さらに、半歩。

トイレに行きたい。

素直な、害意の無い気持ちでどうにか切り抜けたかったが、すぐさま不気味な声に鋭く呼び付けられる。

ひきかえせ!

アタマにきた。
蛇口から、少しこぼれた。声の先に鉄拳を見舞ったのは、三回目に言われた時だった。
進めないだろうが!



続く