ひとり、居なくなった。
時折、何気ない相談をし合える…頼れる年長の一人だったのに。
涙ぐむ雛子と四葉が言うには、『止めきれなかった』そうだ。この二人が悪いわけではない。
一体、何を考えていらっしゃるのか。目的はどうあれ、一人旅は危険過ぎる。ましてや、戦士……。
誰も伴わない姿勢と、プライドの強さや、普段からナイーブさを隠しての振る舞い、殿方をリードしたがりな性格や、秘められた切なさも、弾む声も、肌荒れ箇所も、春歌は把握していたつもりだった。
把握はしていたが、乙女心は、同じ妹同士・・では制御できない。湧いてしまったものは仕方ない。
咲耶は、自らのこころに従った。それでいいと思う。一人の兄を慕う12人の妹達との馴染み切った関係と、穏やかな環境の中で、抜け駆けや背伸びが禁忌とされているわけではない。

ゆるされていることは たくさんある。
はじめていけないことは なにもない。

睫毛を震わせる可憐に、鈴凜にも知らせてくると言いかけたが、まだ船が戻ってきていなかった。
動揺していないのは、千影、鞠絵、白雪、亞里亞だけだった。
『きっと、花穂がドジだから~』と自虐する花穂を、衛が心底困った顔で慰めている。

「ー」

アリアハンを出たものの、苦労の連続だった。
雰囲気を重視し、夜中に出立したものの、同室の二人が起き出してしまった。二人を説得するよりも、何か覚悟のようなものを告げて、跳ね退けた。
公式な女戦士装では、露出が多過ぎるので、特に朝方は寒かった。咲耶の最初の敵は、冷えだった。
レーベ村の防具屋の主人を魅了して、無料で戴いた革の鎧を装備しただけだったが、預かり所から勝手に持ち出した、銅の剣が重たい。
魔物・モンスターとの遭遇戦。磨き込んだ珠の肌を傷つけさせるものかと、戦いに明け暮れ、両側に縛った髪を振り乱した。

わたしは わたしだけど
わたしは お兄様の ……

知りたくない答えなど、なかった。わたしの問いにこたえてほしい。わたしだけと、向き合って…そして、こたえてほしい。
アッサラーム辺りでは何度もナンパされ、パーティ加入への強引な誘いも、当然、断ったわ(蹴散らした)。
寄り添いたいのは、お兄様だけ…なのだから。
洞窟に居た髭のおじ様がツンツンしていたので、どうしても通れなかった…。
軍資金が不足し、アッサラームでアルバイトをしていたのはお兄様には内緒なんだけど…。
北で予想外な出会いが…。



続く