誰も子供扱いしてはならなかった。
一人前の、可愛くも、か弱い女の子であり、誰かしら、血縁のある妹だった。
嫉妬や嫌悪をするよりも、連帯しなくてはならなかったからだ。
記憶を失った兄へ、かつて片時も忘れることなく注いだ愛を、慈しんだ事実を無くしたくなかったし、無くされたくなかった。忘れられてしまうことが、一番こたえている。
無理にでも思い出させれば、あの兄は、あの関係は、直ぐにでも駄目になってしまう……壊れてしまう……。皆に共通している危惧である。抜け駆けしようにも、 あに は、眠ってばかりであった。

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あまり頓着してない・衛。
悲しみは屁のつっぱり・春歌。
私の運命は、嵐を呼ぶわ・咲耶。
ずっと…………私のターン…………千影。
あにチャマ観察日記完成デス・四葉。
資金が尽きて町が発展しない・鈴凜。
亞里亞もおやすみなさ~い。
つねに応援ガンバ!花穂。
多忙過ぎますの・白雪。
教会に入り浸る・可憐。
ミカエルがいないと寂しい・鞠絵。
おにいたまはお寝坊さん・雛子。
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どうして 忘れてしまったの?

身を切られるような思いにも、心が張り裂けんばかりの悲しみにも、耐え切れなくなった妹が一人。
咲耶であった。

「ー」

皆(特に花穂&雛子)の、強い希望により、咲耶の行き先を、水晶で占ってみたが、何も映し出さない。

「今は…………見えない……ね…………」
「そんなぁ~…」
「もう一回だけ、やってみせてよ?」

水晶に掌を翳してみただけで、何も念じていなかった。
目一杯の不安を滲ませ続けている花穂に、無垢な雛子に対して、千影は冷静過ぎだった。それで余計に、花穂らが不安がるとしても……。
誘いの洞窟から、他所の地方には移動できるが、そう遠くには行けない筈だ。船も鍵も、無いのだから。レベルの差もあるし、私達より 『先に』 進むことも無いだろう。
だが、うなだれてアリアハンに帰還する咲耶の姿も、携行型簡易棺に納まる姿も、想像できない。

「…………おかしい……な……」
「どうして?」
「すまない…………」

彼女の意思は強く、尊い。
皆と同じく、永い間……様々な継承を経て、彼女は彼女だけの、揺るぎない、譲れないものを有しているのだがら。
湧いたものに従っただけのこと。素直に導かれている。

際限無く占いを懇願する二人に、疲労度があると告げて、集中できなかったことを詫びる。水晶を携え、自室に戻る。



続く