久々に入江邸のチャイムを押すと、新妻になった琴子が出迎えてくれた。
「じん子、いらっしゃーい」と笑顔で出迎えてくれる友人は、冬に離婚騒動を起こしてうちに飛び込んで来た時と違い、笑顔に溢れていた。
どっちかというと、卒論を落としてしばらく灰になってたあたしの方が重症だったかもしれない。
流石に新年度になってしまうと腹も括れるというもので、元F組の性質なのか気にならなくなってきた。
リビングに入ってお土産を入江くんのお母さんに渡し、琴子にコーヒーを淹れてもらって早速おしゃべり。
というか、琴子とあたしで喋らない訳がない。
高校時代からずーっと付き合いしてて、毎日だって喋ってたあたしたちだから、話が尽きる事なんてある訳がない。
「でさぁ、あたしじゃ入江くんの奥さんに見えてなかったから、同じ苗字であっても気づかれなかった訳よ」
「ほぇー、琴子の事だから、あたしが奥さんよ!!くらい言うと思ってたのに」と言ったら、最終的には言ったそうだ。
ま、それが琴子よね。
そんな事よりも・・・。
おやつを食べて、ある程度話も尽きたところで琴子にチケットを渡す。
「これ、ナラサキくんのライブなんだ。良かったら入江くんと来てよ」と言うと、琴子は「うーん、今勉強が忙しいからなぁ・・・」と元F組らしからぬ事を言い出す。
でも、まあ・・・看護師だもんねぇ。
仕方がないか。
「琴子がダメなら誰でも良いからチケット譲って見に来てくれない!? 席が余ってると、ナラサキくん落ち込むしさ」と言ったら、琴子は「だったら啓太とか見そうだから言ってまるね」と言ってくれた。
「はぁ~、もし未来が見れたらさぁーーー」とため息吐きつつ言う琴子に相槌を打ちながらも、未来が見れたらを夢想してみた。
「うーん、でもうちらだよ!? きっと無理じゃない??」
「やっぱ、そう思う??」
琴子も同じ結論に達したみたい。
「だってさぁー、もし過去の自分が今の未来見えたとしてさ・・・私は大学行けると思っちゃって、やっぱ勉強してないだろうし、あの頃を思い出したって、まさかあの入江くんに勉強教えてもらうとかさ、まったく思ってなかったじゃん!!」
「だよねー。まさか家が潰れるとか、お父さん達が親友だとか、入江くんが結婚してくれるとか・・・はぁ~」
またため息をつく琴子に「どうしたのよ、あんたまさか」
また『離婚騒動』かと言葉を濁して聞けば「信じられないくらい幸せで、もし未来見えてたらもっと頑張ってたのかなぁ~」と、真逆な感想が返ってきて笑った。
「無理よ~、どーせ結婚するからってサボるに決まってるじゃん!! そして、入江くんはそんな琴子見て幻滅して、お前とは一生結婚しないとか言うのよ」と言ってやると「うわー、ありそう」と言って落ち込んだ。
「やっぱ、勉強しないと、だね」
「そー、だねー」
あたしには関係ないと言えないのが大学生の辛いところ。
ここまで来て退学とかは嫌だし、後一年頑張って大学資格取らないとね。
バカだけど、大学まで出してくれた親に悪いし、ナラサキくんの事も支えなきゃだしさ・・・。
琴子はいいなーってちょっとだけ思うけど、あの入江くんの奥さんはあたしには出来ないもんね。
なんて思ってたら「いらっしゃい」とイケメンな入江くん登場。
「入江くん、琴子の事、返品しないでよ」と言うと、琴子が「ちょっと、何言ってんのよ」とあたしの口を塞ごうと慌てて立ち上がってテーブルに足をぶつけて痛がっていた。
「もう迎えに行かないから、大丈夫だよ。こいつは机に齧りつかせておくから」
あら、お幸せそうでナニヨリ。
絶対あたしはゴメンだけど・・・。
「じゃあ、帰るわ。入江くん、ナラサキくんのチケットなんだけどさ」と声をかけると、予定的に行けそうにないから知り合いに渡すと言っていた。
その割り切りも大事よね。
本当はあたしの大事な人達に見せたかったけど、しゃーないか。
新しいファンが増えますよーにと願いなら入江邸を辞して、薄暗くなった帰り道を歩いたあたしだった。
* * *
ネタが無かったので、じん子ちゃん出してみました。
意外と書きやすい人物で、普通でいいかも。三人組はずっと喋って止まらないイメージで好きです