遅ればせながらも、あけましておめでとうございます☆
あいも変わらず鈍足気まぐれ更新な我が家にございますが、今年もどうぞよろしゅーにお願い致しまする。
_(:3 」∠)_
さてはて、せめてもの、新年っぽいものをむりくりに。


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「っ…………だ、大丈夫。きっと……だいじょう…ぶ」


はぁはぁと、荒く弾んだ息遣いの中で零されるは小さな小さな震え声。
あからさまなまでに怯えを滲ませた涙声が囁くは追い詰められた自分を慰め、言い聞かせるかのようで。
天井近くまでに積み上げられた穀物の香りがする木箱の影へと身を潜め壁に身を沿わす。
丸く小さな耳からしっぽのさきまで震わせながら、きゅぅっと自分の腕でその身を抱き締めるように少しでも小さく小さくと身体を縮め、必死に気配を消す。
それはその身に染み付き秘めたる、獣の本能。


はじまりはそんな神獣達の新年の宴のことだった。
あと少し……あと、ほんの少しの時間を逃げ切る為に。
長い黒髪は解け乱れ、簪や耳環もない。どこで脱げ落ちたのか片足にしか残されていない履き物に辛うじて肩に残された背子にはくっきりと刻まれた大型の獣の爪跡と、その姿は哀れなまでにボロボロで。
それでも、絶対的な捕食者から無事に逃げ延びる為、キョーコは震えながら、必死にその息を殺すのだった。




『虎の若君の嫁獲り物語。』




陰陽の流れを整える為、天球の赤道帯に沿って東から西へと12に別けてくるくると巡り続ける十二支の神獣達。
新たなる年を迎えたるその日に集められたる12の神獣。
その年の獣たる雄がひとつ。
そして、それに侍る為のそれぞれの種族の11の雌。
次代へと巡る神なる獣を産み出し育む為の循環たる嫁取りの宴。
今年のその宴へと招かれたる姫のひとり。
十二支の獣の最たる初めの者にして、ずる賢しとされた子の一族の姫。
「あら、ごめんなさい?余りにも小さくていらっしゃるから目に入りませんでしたわ。」
どんっと、強くぶつかりキョーコを転ばせたのは強大な力と美貌、そしてそのプライドのさでも有名たる辰の姫で。
冷ややかにキョーコを見下したその瞳に邪魔だとだかりな敵意が伺えた。



子の一族は十二支神獣の中でも最も立場の弱い嫌われものと成り果てた一族である。
肉食の獣のように鋭い牙や爪もなく、草食の獣のなかでもその体は余りに弱く小さい。
そんな、小さき最弱にして純朴たる丑を騙し初めの獣たるを得たズル賢しい鼠。
年の獣たる雄が花嫁を選ぶ立場な筈の子の年であってさえ、多くの神獣に顔を背けられ……卯や酉の者への山のような貢物と拝み倒しでもって懇願し、それでも、しぶしぶと同情でもって嫁入りしていただいていると言う立場。
子の年であってでさえ、そんなありさまで。
子の一族よりの姫が他の神獣へ嫁入りしたのなど、悠久に巡る長き時間の中でもほんの数える程。
そんな子の一族より、今年の新年の宴へと送り出されたる鼠姫がキョーコだった。
艶やかな黒髪は美しいが、顔立ちはよくよく見れば愛らしくはある?といったもの。そう……華やかな美貌と言うよりも、どちらかと言うならば質素で地味だといった容姿。
キョーコははなから年の獣への嫁入りどころか、寵を競い合う争いの参加から、諦め切っていた。
だって……よりにもよって、今年は寅年。
天敵ある猫よりも更に遥かに大きく強大なる虎の神獣。鼠の本能が我が身の危うさをビリビリと訴えて仕方がない相手。
そして、そんな寅の中でも、今年の獣たる若君は縄張り争いでも負け知らずで手の付けれぬヤンチャ者。そして、来るもの拒まずな遊び人と噂の雄で……。
新たなる年の迎えた宴の始まりよりずっと、キョーコは目が合えば殺される!!とばかりに目立たぬよう……決して虎の視界へ入らぬようにと立ち回っていた。
そんな鼠姫キョーコのある意味命をかけての潜伏生活もなんとか2日が過ぎた。
そんななかでも漏れ聞こえたるはやはり、今年の主役たる虎の若君の話。
どうにもくだんの若君は、やれ眩いがばかりの美貌にふるいつきたくなるような男ぶりな色香滴る伊達男。
そんな魅力的な雄のそばへと侍ろうとキョーコ以外の姫達はそれぞれの手管でもって誘引しているのだとか。
それなのに、どうにもその若君はただの一人でさえ、一族へと迎えたる花嫁を未だに選んではおらずに。
それゆえにお互いに火花を散らすかのように女の争いは白熱する一方のようで。
そんなピリピリと張り詰めた中、どうにもお目当ての若君を見失ったらしき辰の姫。
その苛立ちをそのままに、ちょうど目に付いた鼠姫のキョーコへとぶつけたらしい。
ただそれだけの事。
けれど……どうにもどうあってもキョーコには運がないらしい。
転がされた先、勢いそのままつい手をついてしまったのは宴が行われたる屋敷の端に位置する小さな小部屋の襖で。
バタンッと、そう音を立てて倒れた襖。
唐突に開け放たれたその部屋はなんとも意味有り気に薄暗い。
まず、鼻をつくは煙草と強い酒精の香り。
朱色の敷布の上、詰まらなそうな顔で煙管を蒸す男とその男にしなだれかかるなんとも妖艶たる豊満な身体つきの姫。
その淫らがましいような男女の秘め事の気配に、未だおぼこいキョーコの頬がかぁっと赤く染まる。
けれど、それはほんの一瞬のこと。
「まぁ、久遠様っ!」
と、そう辰の姫がそう呼んだ。
十二支の宴に在るただ唯一の雄、寅の一族の若君の名を。
金色に輝く髪に高い鼻梁の精悍な顔立ち。しなやかな野生の獣を思わせる鍛えらた身体が、白い女の手で肌蹴られたうわがけの合わせから覗く様は目に毒なまでに色っぽい。
色仕掛けで出し抜く腹づもりだったらしき巳の姫と眉を釣り上げた辰の姫が言い争っているのだけれど……
面倒事には我知らずとばかりに淡々と、さも退屈だとばかりに煙管の中身を煙草盆の灰落としへと気怠げに捨てる男。
ちらりと、無造作に廊下に転がったままのキョーコへと向けられた虎の瞳。
不思議な色合いの深い翠色のその美しさに、思わずにキョーコの目は縫い止められてしまう。
眇められゆく翠の瞳。
小さく丸い灰色の耳から細い尻尾の先まで、ぞわりと、舐めるような悪い悪い予感を含んだ悪寒が走る。
怯え震えた小鼠をその目に捉え、にぃっと、酷く楽しげに獣はその唇を歪めさせた。
「ひぃっ!!!」
引き攣った短くこぼれ落ちた悲鳴と共に、弾かれるようにキョーコの身体が動き出す。
天敵の手から逃れるべく逃亡を果たそうと、なりふり構わず死に物狂いに走り出す鼠姫。
そして、それを追う大型の肉食獣。
辰と巳の姫を置き去りに、唐突に始まったそれはまさに、獣の狩りであったと言う。




ところでだが、自然界に於ける虎の狩りの成功率は実に低い。そして、虎の獲物とするにはちょろちょろと逃げ回る鼠は余りにも小さい生き物で。
けれど、悲しいかな、ここは天球にある赤道帯にある十二支の宴の為の屋敷。
宴の間、十二匹の神獣以外の存在しない限られた空間の中。
じわり、じわりと、逃げ惑い隠れ潜む先から追い詰められてゆく鼠の姫。
その本能がゆえか、キョーコが逃げ込んだ先は小さな食糧庫。
けれど、それはまさに復路の鼠と言った出入り口ひとつきりな行き止まり。
「大丈夫、大丈夫、あと……あと、少し。ほんのあと、二刻……だもの。」
がくがくと震える身体を抱き締めて、キョーコが待ち望むは十二支の三ヶ日に渡る宴の終わりの時。
その時さえ迎えれば、集められた十二支達は其々の一族に与え定められた領地へと帰り、また一年の間、交わる事もない。
そう。無事に逃げ延び、宴の終わりを迎えられれば…………
けれど、現実とは非情なるものらしく。
すぱりと、鋭き三本の獣爪がキョーコが立て篭もる食糧庫の扉を紙でも切るように易々と切り裂き、哀れ扉だった物はただの木材の破片へと成り果てる。
「ひゅっ…………ゆ、許し…て」
諦め悪く部屋の奥の角隅へと背中を減り込ませるように押し付け身を縮めた鼠の姫は、震えた声で縋るように虎へと見逃して欲しいのだと許しを乞う。
そんな追い詰められた憐れな獲物をうっとりと見下ろし見詰めたる翠の瞳。
「だぁめ、許してあげない。」
落された低い声は、ともすれば幼な子に言い聞かせるかのように優しげで。
とんっと、壁に両の手を突きその腕で愛しい獲物を閉じ込める檻を作り出した男。
その身に宿る獣の本能に追い立てられるがまま、怯え震えた白い首筋へと牙を立て噛み付く。
「っ!!」
その痛みと恐怖を引き金に、暗がりへと落ちてゆくキョーコの意識。
くたりと腕の中に落ちてきた獲物の身体を捕らえ、満足気に細い首筋へ舌を這わせる獣。
まるで、仕上げのようにそのまろい肌を強く吸い上げる。
意識なく、無防備に晒された鼠の姫の首にくっきりと刻まれた虎の歯形と赤いくちづけの痕。




寅の年を迎えたる今年の宴にて、強く麗しい虎の若君が娶りたるはただひとりの鼠姫。



その後、天敵たる虎の一族の中へ捕らえられたその小鼠の姫は、強かに虎達の寵愛を刈り取り尻に敷いては君臨し。
やがて……すばしっこく賢きの何が悪い?騙された方も悪くはないか?なんて、十二支に於ける子の一族の地位の向上へと一役を買ったのだとか。




これは、そんな虎の若君の嫁獲りの物語。



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敦賀さんになる前のやさぐれ時代なイメージの久遠な虎くんに本気で追い回されたら鼠なキョコさんにゃマジでさぞやおそろし恐いだろうねって、寅年に絡めて作ってみた謎話でしたとさ。
_(:3 」∠)_


要らぬ蛇足設定として、辰姫は絵梨花に巳姫が祥子さんあたりで、戌のぽちりちゃんに卯の愛華ちゃん……なーんて当てはめてくものの、酉が坊以外に浮かばなくって世界観壊れて困りましたとさ。
因みに天帝は愛の伝道師さん。
嫁獲りされちゃったキョコさんは虎の若君やらその両親やらから舐めるように溺愛されながら怯え暮らすのでしたとさ。
ァ,、'`( ꒪Д꒪),、'`'`,、
めでたしめでたし?


↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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