「遊歩道の現場 」、今日はお金の話です。
この話、書こうか書くまいかずっと思案していたのですが、
目的は、決して鶴亀さんの名誉を傷付けることではないため、記録しておこうと心を決めました。
誠実を心がけて書きます。どうか皆さんに、私の真意と保護を巡る現実が伝わりますように。
去年10月7日、「この年になって嫁に面倒見て貰えないのは困るから、私は今日限り、餌やりをやめます」と宣言した鶴亀さん。
この時庭に定住していた猫のうち、子猫9匹(ハロウィンの子猫含む)は生後半年未満で、まだ手術をしていません。
今、餌を絶たれたら、飢えた猫たちは食べ物を探し、早晩庭を出てしまうでしょう。
半年になる12月を待っていたら、全頭に手術できる保証はほぼありません。
手術をしないまま、地域に猫を放出するワケには絶対にいきません。
汗だくになってやり遂げた7月の大人猫の全頭TNRも、あっという間に水泡に帰します。
鶴亀さんの突然の「餌やりやめます宣言」のおかげで私だけが追い込まれ、次なる決断を迫られていました。
ハロウィン。餌やりをする事務所のスタッフがいずれ引き取ると言っておきながら、
生後半年で妊娠し、現場に取り残されたメス猫。
不妊手術をしたのは、産後わずか数日のことで、彼女は私にとって特別な1匹になった。
この写真を見れば見るほど、息子トリックは母親に瓜二つだ
時間がありません。
猫が庭を出る前に全頭TNRするために、私はすべての予定をキャンセルして準備に取り掛かりました。
同時に、この先の見えない現場から、少しでも個体数を減らすべきだと考えました。
時期遅れで生まれたハロウィンの子猫2匹は、生後3か月になったばかりでした。まだ、里親募集の望みはあります。
無理を承知で知り合いの保護ボラさんに相談すると、私の様子を見てタダならぬものを感じ取ったのかもしれません。
「2匹を引き受けるから捕まえて来て。ただし、1日も早く」と、詳細不問で引き受けてくれました(→「妊娠して取り残されたメス猫」)。
10月8日の朝。キャリーを抱えて庭に入りました。
たちまち、餌断ちされて丸2日のお腹を空かせた猫たちがわらわらと湧いて出て私を取り囲みました。
その中から、ひときわ小さく痩せっぽっちのハロウィンの子猫だけを誘導し、2匹一緒にキャリーで捕まえることに成功しました。
扉を閉めた直後に、母猫・ハロウィンが血相を変えて現れました。私はキャリーを抱え上げ、思わずハロウィンに言いました。
「今日まで、子育てご苦労さまでした。あなたは、若いのに本当に頑張った。立派だったね。
子供たちは、今日でこのお庭から卒業します。お別れだよ」
「…きっと幸せになる。だからどうか、許して」と、心の中で詫びました。
庭にデビューしたばかりのトリック♂。7月5~8日に生まれたはずだから、ちょうど3か月になったところ
保護時の体重1.0キロ。エイズ・白血病陰性、ウンチは回虫だらけだった
その時、玄関のドアが開いて鶴亀さんが出て来ました。
正直、餌やりやめます宣言以来会う気も失せていたのですが、見つかってしまってはしょうがありません。
私は鶴亀さんにキャリー越しに子猫を見せました。
「知合いのボラさんに頼み込んで、預かってもらう話が着きました。
たった2匹でも、お庭から猫を減らせたら大きいと思います。この2匹を保護しても良いですか?」
すると、鶴亀さんの目が涙で一杯になりました。そして、
「ああ、黒ちゃんの子ですね…。この子たちが一番不憫だったんです。ありがたいです。よろしくお願いします」と頭を下げました。
自分の撒いたタネで、この子たちに食べさせてやることができなくなった…。
鶴亀さんにも自責の念があることが感じられ、私は少し、救われた気がしました。
そこで私は、子猫たちを保護出しするにあたり資金が必要であることを鶴亀さんに持ちかけることにしました。
「この子たちの里親募集も、知り合いのボラさんが引き受けてくれました。
でも、保護生活にはお金が掛かります。その人に全部負担させて丸投げすることは、私にはとてもできません。
せめて、多少でも持参金を持たせてやりたいのです。鶴亀さん、ぜひご協力下さい」
「はい。で、どれ位?」
「うーん…。2匹ですから、5万円位でしょうか」
途端に、鶴亀さんの顔つきが強ばりました。 やがて、その口から飛び出した言葉に、私は仰天しました。
「…もう少し安くならないですか?」
「えっ…
保護するための初期検査とワクチンだけでも、多分1匹1万円は必要だと思います。。
いずれ、不妊・去勢手術費用も掛かりますし、餌代だって掛かります。2匹で5万円は妥当だと思うのですが…」と言うと、
「私には払えません。無理です。 でしたら、放して下さい。保護は結構です。庭に置いて行ってください」
鶴亀さんは、開き直ったように言い切りました。
自分の耳を疑いました。
餌を貰えるアテのない庭に、子猫を置いて行く? …あり得ません。
たった今、「不憫でならない」と泣いて見せたのに…。その舌の根も乾かぬうちに、そう言うの
一瞬、頭がクラクラしました。
内心ひるんでいましたが懸命に立て直して、
「ご飯も貰えないような場所に、リリースすることなどできません。
高額で無理と仰るのなら、私も払います。少し、考えておいてください」と言い残し、逃げるように庭を出ました。
不憫だと言いながら、自分の懐を痛めることはできないと言う…。
人の心の裏・表を一瞬にして突きつけられて、私はたじろいでいました。
懸命に、「冷静になれ。冷静になれ」と自分に言い聞かせながら、子猫2匹を家に連れ帰りました。
同じくハロウィンの子供、トリート♀。保護時体重1.2キロ。エイズ・白血病陰性
弟のトリックより発育が良く、その分人馴れも遅れた。3か月の野良生活でワイルドで賢いメス猫に成長していた
この日、保護ボラさんをある病院へ紹介することになっていました。
その合間に動物病院で2匹の初期検査を済ませ、保護ボラさんが帰る時に子猫を引き渡す計画で、私は多忙を極めていました。
慌ただしく立ち回っている時、携帯が鳴りました。「鶴亀です」という硬い男性の声に、息子さんであることがわかりました。
「母に、5万円出せと言ったそうですね。これは、一体どういうことですか?
今、母が保健所に相談の電話を入れると言ってます」と、お怒りの様子が見てとれました。
「わかりました。保健所でも何でも相談なさって下さい。
用事が終わり次第そちらへ伺いますから、しばらく待っていてください」と携帯を切りました。
こんな時に、こんな電話が入るなんて…。
まるで、猫のことに付け込んだ悪徳ボラが、高齢者を良いことに、母親からぼったくりを企んでいると言わんばかりの言い方です。
何だか全てがバカらしくなり、投げ出したい気分になりました。
けれど、動物愛護活動などひとつも知らない一般市民とは、こうしたモノです。
そして、私もボランティアを名乗っている以上、
どこへだって出かけて行き、理解してもらえるようとことん話をしなければなりません。ボランティアとは、そうしたモノです。
保護ボラさんを病院へ紹介し、その足で鶴亀さんの事務所へ駆け込むと、
長男籠城の時に一度会ったきりの息子さんが固い顔で待ち構えていました。
そして、「母さんあんたも来なさい」と、母屋にいた鶴亀さんをきつい口調で呼びつけました。
今にも泣き出しそうな90歳のお母さんと、その母親にも私にも、不信感をむき出しにした息子さんとの、
狭い事務所で突っ立ったままの、奇妙な三者会談が始まりました。 (続く)