「宣告」前夜 | 日々是ねこパト (sakki が繋ぐ地域猫活動)

日々是ねこパト (sakki が繋ぐ地域猫活動)

野良猫1匹を巡って、いろんな人が関わっている。
それを繋げていくと、町がそのまま「形のないシェルター」になるよ。
小さな町で、sakkiが紡いだ“猫を巡るコミュニティ”のお話

雷先週1週間、私はバカになって過ごしました。「生きた心地がしない」というのは、あのようなことを言うのでしょう。


我が家の猫、トミ黒(トミクロ)に異変が生じていたのです。

検査をして、その結果を待つ間の苦しみと言ったら、尋常ではありませんでした。



1週間、ひとりでいろいろなことを考え続けました。

とどのつまり、生きるものすべてはいつか死と向き合う。それから逃れられるものではない。

そうであるなら、ともに居られる短い時間をいかに大切に過ごすか? それが大事なのだと、切実に思いました。

そう思うことで、かろうじて平静を保てた気がします。


結局、たった1枚の診断書が私を正気に戻してくれました。


人間というのは、喉元過ぎれば忘れるようにできています。よくできたものです。そうでなければ、前には進めない仕組みなのでしょう。

でも、別れは、いつか必ずやってくる。いつまた始まるかもしれないそのカウントダウンに備えて、

私は、今回のことを忘れてはいけないと自戒しました。


そう考えて、この7日間の出来事と、私の格好悪いうろたえぶりを記録しようと思います。


同じような思いをされた方もいらっしゃるでしょう。辛いことを、思い出させてしまうかもしれません。

でもその時、どんなことを考えて、現実に立ち向かわれたか?

その思いを共有できたら、ありがたいと思います。



           新居のトミ黒。

           新居にはベランダがあり、私は脱走防止策を念入りに講じて、トミ黒を外に出せるようにした。

           猫の額ほどの囲まれた空間でも、太陽と風を全身で感じるようで、トミ黒の喜び方は想像を超えていた。

           しかし、私が一緒に出ないとわかるとそそくさと室内に戻ってくる。その様子が可愛くてたまらない。

           かつて猫崎公園に居た頃と同じ様に、日だまりで延々と毛繕いをするトミ黒の姿を見ていると、

           なんとも幸せな気持ちで胸が満たされる


2012年12月。私は猫崎公園から1匹のオス猫を我が家に迎え、トミ黒と名付けました。


左目の周りに大量の膿が溜まってお岩さんのようになってしまった彼を通院治療させているうちに、

公園に返すことができなくなってしまったのです。

ずっと外猫に関わる活動をしていながら、私はそれまで、猫を飼ったことがありませんでした。

トミ黒は、この世で初めての「私の猫」になってくれたのでした(→「猫ハウスの効能 」)。



保護した後になって、トミ黒が猫崎公園に現れたのは2003年だとわかりました(→テーマ「10年前の猫崎公園」)。

実に10年という長い年月を、トミ黒は野良猫として、猫崎公園で生きてきたのです。

その間、イタズラもされず、大きな病気もせず、可愛がってもらえたのは幸運なことでした(→「10年間公園で暮らした猫」)。

ぶーちゃん(2013年5月没)と並んで、「猫崎公園の膝乗り猫」として名を馳せて、

今でも、「昔、ここにこんな猫がいたんだよ。可愛かった」と、携帯の画像を披露してくれる人がいてくれるのは、嬉しいことです。



公園猫を全頭TNRして、公園仲間を作って、一緒に給餌と管理を始めたのは、2010年です。

当時から、トミ黒は食べるのが下手くそでした。ポロポロとこぼしたり、食べたものをそっくりリバースしたりしていました。

口の中に、正体不明の慢性的な弱点を抱えているような気がしていました。


保護のきっかけとなった左目の炎症も、原因は歯根に潜んでいた病巣でした。

再発を防ぐために、保護後、犬歯を含めて全抜歯し(→「牙をなくした公園キング 」)、

食べやすい大きな粒のフードを与えて(メタボリックスとエイジングケアライト)体重管理をしました。


以来、トミ黒は大きな病気もせず、いつも温和な性格で私を満たしてくれながら、12歳になりました。



        年に一度、猫崎クリニックへ健康診断に行く。通院が苦手なトミ黒は不安な声を上げ続ける。

        猫崎クリニックは、保護のきっかけとなった左目の炎症の時、入院設備を仮ごしらえして対応してくれた。

        トミ黒は「トミ黒部屋」(バックヤードの保護ケージの2段目中央)をちゃんと覚えていて、

        治療が終わると診察台を飛び下り自分でドアを空けて、そこへ飛び込んでいたそうだ。

        今年は、さすがにトミ黒部屋に戻ろうとはしなかった。忘れてしまったのかな?

        早くお家に帰ろうね


ところが、今年9月のことです。たまたま大あくびをしたトミ黒の口の中を見て、あれっ!?と思いました。

ベロが、向かって左側に極端に寄っていたのです爆弾


前からこんなだったっけえっはてなマーク と仰天しました。

おまけにちょうどその頃から、直径1センチ位の痰のようなものが、部屋のあちこちに吐き出されるようになりました。

痰の中には、毛がたくさん入っていました。


今思うと、毛繕いで口に入った毛が、何かの理由で飲みこめずいつまでも口の中に残るので、

不快になってツバとともに吐き出していたのかもしれません。

それでも、トミ黒は少しも変わらず元気で、食欲も旺盛でした。便通も規則的でしたし、精神的にも安定していて、

健康そのものに見えました。


でも本当はその時以来、「トミ黒の口の中に、また異常が始まったのかもしれない」という不安が消せなくなっていたのです。

「何でもない。きっと何でもない」と自分に言い聞かせながら、ワクチン接種と健康診断を、例年通り10月末に予約しました。



          診察台の上のトミ黒。体重は4.5キロ。

          公園に居た頃は4キロあるかないかだったのに、家に入れて1年で4.7キロまで増え、ダイエット中。

          フードの内容を話すと、「これ以上ないほどの粗食ですねにひひ良いと思いますよ」と笑われた。

          オスの家猫としては小さいが、この骨格なら理想体重の上限だと思う。

          シニアの肥満は万病の元だ。関節痛でも苦しめたくない。できるだけ長く一緒に居てほしい



晴れ10月28日水曜日。猫崎クリニックでシニア健診を受けるついでに、口の中を診て貰いました。

先生はトミ黒の口を開け、「あれ?変ですね。何かある」と言い、何度も指を入れて触りました。


ベロの下、人間だと口腔底と呼ばれる部分です。

口腔底の向かって右側の範囲に何かがあり、固くなっている。そのため、ベロが真ん中に納まらず左へ寄っている。

あるいは、触ると痛いので避けている…むっはてなマーク

先生はそう感じたようでした。


一緒に指を突っ込んで患部を触りましたが、私には何が固くて何がおかしいのか、わかりません。

盛り上がっているようにも見えませんでしたし、色も、健康的なピンク色でした。


「これはちゃんと調べた方が良いです。麻酔して組織を取って培養して、検査した方がよいでしょう。

その検査もですが、その後の治療のことも考えると、設備の整った大きな医療機関でやるのが良いでしょう。

紹介しましょう」と、すぐに予約を入れてくれました。



               神妙な顔をして大人しく爪を切らせるトミ黒。家ではこんな風には切らせてくれない。

               病院で受ける処置、爪切り、投薬、点滴などの手技ひとつひとつをよく見ておくと、

               いずれやってくる介護生活にきっと役に立つ


星空ところが。予約した検査を待たずしてトミ黒に異変が生じたのです。2日後の金曜の夜でした。


トミ黒はその夜、23時から23時半までの30分間に、10回以上もトイレに駆け込んでは飛び出ることを繰り返したのですドンッ

でも、オシッコは出ません。

トミ黒はワケがわからず、その度に猫砂を蹴るようにトイレを飛び出るので、辺りは猫砂だらけになりました。


むっそういえば、昨日の夜も猫砂が散っていて、あれ?今度の砂は飛び散りやすいのかな?と感じたのを思い出しました。

猫砂のせいではなかったのです。トミ黒の異変は24時間前から始まっていたのだと気づきました。


0時を過ぎるとトミ黒は疲れて私の膝で寝てしまい、その後1時と朝6時に、普通の量のオシッコが出ました。


膀胱にオシッコが溜まっているのに出ないのであれば問題です。一刻も早く出してやらないといけません。

でも、適量が出ているのなら、夜間救急に行く必要もないだろうと思いました。

多分、何かの理由で膀胱に圧迫感があり、それを尿意と勘違いして、トイレに駆け込んでいたのでしょう。

膀胱炎だろうと思いました。



               トミ黒の口の中を覗き込む先生。

               うまく撮れなかったが、ベロが向かって左側に逸れている。

               本来ベロが載るはずの右側口腔底が固くなり、奥に壁のような盛り上がりがある、と指摘された。

               私の目と指では、異常には感じられなかった

晴れ翌土曜日。猫崎クリニックは休診日のため、朝一番で、近くのG動物病院へ駆け込みました。


院長は、私の目の前で膀胱と腎臓をエコーで丁寧に探って、やはり膀胱炎であることがほぼ確定しました。

念のため尿を検査しようとしましたがオシッコが溜まっていないため、

輸液をしてオシッコを溜めてから、膀胱に穿刺して採尿することになりました。


「実はもうひとつ、心配ごとがあるのです」と私は切り出しました。

一昨日、口内の異常を指摘され、来週大きな医療機関を予約している、と話しました。


院長はトミ黒の口の中を念入りに調べました。そして目の前で、「直径15ミリ×20ミリ(の病変)」とカルテに書き込みました。

また、丁寧に全身をチェックして、「鎖骨のあたりも腫れているような気がする」とも言いました。


院長は私に向き直って、

細胞診をすべきでしょう。

もしかしたら、扁平上皮癌か、メラノーマ(あとひとつ可能性を示唆されたが失念)の可能性があります。

患部に針を刺して組織を取り、培養して細胞の組成を分析をします。

私には培養分析を依頼する伝手があります。その後の対応も、当院でできると思います。

どうしますか?その予約日を待ちますか?それとも今ここでやってしまいますか?」と聞いてくれました。



私がずっと密かに感じていた不安が、とうとう、言葉になってしまいました。


扁平上皮癌…。 しかも、よりによってベロの下叫びビックリマーク


この場所にできたものが本当にガンだったとしたら、一体、どんな対応が考えられるでしょう?


猫や犬の扁平上皮癌に対する知識は多少ありました。ガン治療についても関心がありました。

だからこそ、「口腔底にガン」という可能性は、あまりにも重過ぎました。


けれど、まだ間に合うかもしれない。トミ黒は実年齢より若いし、体力もある。

どんな治療ができるか? その選択肢は、検査をしなければ広がらない。

遠方の大きな医療施設に行かなくても、自宅から5分のこの病院で対応してもらえるのなら、トミ黒のストレスも小さくて済む。

こんなにありがたいことはありません。


大事なことは、目の前の院長と私ががっぷりタッグを組んで、トミ黒のために最善の今後を考えることだ。

それがどんな方法であっても…。と思いました。


私が、「先生。では、お願いします」ときっぱり言うと、「ではこれからやります。待合室でお待ちください」と言われ、

トミ黒はバックヤードに消えました。

点滴と、膀胱穿刺と、口内の組織採取が終わるまで、1時間ほど待ちました。



                    検査を終えたトミ黒。

                    ベロが向かって左側に逸れ、奥に赤く変色した患部が見える


再度診察室に呼ばれると、診察台の上に、キャリーに入ったトミ黒がいました。

口元に、粘度の高いヨダレがぶら下がっていて、切れません。

私を見て盛んに鳴くので、口の中が良く見えました。つい先ほどまで綺麗なピンク色だった口腔底が、

真っ赤に変色していて痛々しく感じました。

15ミリ×20ミリと記入された患部の範囲が、初めて認識できました。


院長が入って来て、トミ黒のヨダレを優しく拭った後、一連の検査を説明してくれました。


点滴をして、膀胱に穿刺して採尿して検査したこと。

口腔底の患部の組織採取は、最初口を開けてベロの下に針を刺したが、うまく取れなかったそうです。

そこで、顎の外側の下部から、口の中の患部を見極めて再度針を刺し、組織はちゃんと取れたと言われました。

すべて無麻酔での処置でした。トミ黒はかなり辛かったと思います。


「顕微鏡を覗きましたが、それらしき細胞が見えました。やはり、扁平上皮癌の可能性が高いです。


細胞診の結果が出たらこちらから電話をします。だいたい1週間位かかります。

それまで、膀胱炎の抗生剤を出しますから飲ませて下さい。1日2回です」と指示されました。



診察室を出て会計を待つ間、叫び出しそうでしたダウンダウン



でも、たまたま待合室に知り合いが来ていました。胸に、アズという老犬を抱いています。

そのアズが、先日院長に膀胱がんの手術をしてもらったことを、打ち明けられたのです。

アズは、身体がきついのか彼の胸にしっかり抱かれて、大人しく何時間も待っていました。


もし、彼とアズにそこで出会わなければ、

私は、「うちの猫、ガンかもしれないんです!!」 と、

そこにいる誰彼にぶちまけて、半狂乱になっていたかもしれません。


でもまさに今、ガンと闘っているアズと飼い主さんの前で、そんなことはできませんでした。

私はただ、「どうやら膀胱炎で…あせるとだけ話して、掌に願いを一杯込めてアズの頭を撫でて、病院を出ました。



まだ、ガンと決まったワケではない。でも、「それらしき細胞が見えた」と言われたのだから、ほぼ確定なのかもしれない…。

細胞診の検査結果が出るまでの、長くて辛い一週間は、こうして始まったのでした。                     (続く)






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