私が幸せに暮らしている間ヤンスンはこんなに波乱万丈に生きてきたんだ……
キョンミは驚きを隠せなかった。
「キョンミー何て顔してるのよーこんなの序の口、今からよ」
ヤンスンは含み笑いしながらまた語りだした。
ある日仕事が終わって住んでいる民宿の前に黒い車が2台停まっていた。
ドアが開き血まみれになったヨンミンが誰かに引っ張られ出てきてその後にヤクザ風の男達が降りてきた。
ヨンミンは再びギャンブルをはじめ、違うヤミ金に手を出していた。
「おー若いしいい女じゃねえか。おい、姉ちゃん。あんたがその気になれば2ヶ月くらいで借金返済した後おつりがくるぜ」
そう言いながら男は舐めまわすようないやらしい目つきでヤンスンを値踏みした。
ちょうど給料日だったヤンスンは震えながら封筒そのまま男達に渡した。
「ふーん。こんなはした金今日の利息分にもならないな、まーこれで今日の所は帰ってやる、また明日来るからな。逃げられると思うなよ。おい、お前ら見張りついとけ」
男達はニヤニヤと笑いながら帰っていき、二人の男が停車しているもう一台の車の中へ入っていった。
ヤンスンは号泣しながらヨンミンを責めた。
しかし傷だらけでヤンスンの足にしがみつき涙を流しながら謝るヨンミンを見ると不思議と怒りが収まっていった。
その夜ヤンスンはなかなか寝付けなかった。
頭ではこれ以上ヨンミンといてもこんな生活が続くだろうから別れた方がいいと思いつつ好きな気持ちは変わらなかったし、ミレと親子3人で暮らしたいという気持ちを捨てきれなかった。
(どうしよう。どれだけのお金を借りたかわからないけど、もうこそこそと逃げる生活はしたくない。私がもっと頑張ればいい。もう二度としないと言っているし、もう一度だけ信じてみよう)
そう決心すると睡魔が急に襲って来てヤンスンはそのまま眠りについた。
夜中にヤンスンはふと目を覚ました。
(知らないうちに寝てしまってたんだ……)
横で寝ているであろうヨンミンの姿が見えず襖越しから押し殺したヨンミンの声がかすかに聞こえてきた。
「はい、はい、今横で寝てます。あの、本当に2か月だけ風俗で働けば借金返済できます?」
ヤンスンは耳を疑った。
「2カ月でそんなに!?いやーすごいっすね。はい必ず説得して働かせますから。大丈夫っす、あいつ俺にベタ惚れなんで。あいつ赤ちゃんを捨ててまで俺についてきた女っすからね。普通そんな事しないっしょ、俺いい仕事しますからね、あっちの方は」
ヨンミンは笑いを嚙み殺した。
「はい、説得して明日からでも働かせます!善は急げといいますからね!」
そしてヨンミンは何度も電話越しに頭を下げながら電話を切った。
ヤンスンは慌てて布団の中へ戻った。
「ごめんな。少しの辛抱だから、頑張ってくれよ」
隣の部屋から戻ったヨンミンはヤンスンの頭を撫でた後すぐに背中を向け鼻歌を歌いだしいつしか鼾にかわった。
「なんてひどい!最低な男ね!」
キョンミは思わず声を荒げた。
「100年の恋も覚めるってこのことね。何が許せなかったかと言うと子供に対する愛情が全くなくて他人の子のように話してたこと。私にはあいつと娘、家族3人で暮らしたいという夢があった。しかしあいつはそんな気がさらさらないのがわかった。それに私の事もただの金づるだったんだ、てそれで一気に熱がさめた」
ヤンスンは小さなボストンバックに入るくらいの荷物を最小限詰め車の中で見張り役が寝ている隙をみて逃げ出した。
そして始発に飛び乗りソウルへ向かった。
朝になり兼ねてから自分を口説いてきていた客に電話をした。
「社長!前の話本当ですか?私を日本に連れて行ってください!」
「うちのお店の常連さんが東京で高級クラブを何店舗か経営してる日本人を連れて来たことがあって、それから韓国に来るたびに店を1軒持たせてあげるから俺の女になれと口説かれていた。
あの時はもうどうでもよくなっていた。自分をこの地獄から救ってくれるのなら誰でもいいと思っていた。一刻も早く韓国から逃げ出したかった。結局私は子供よりもあの男が好きだったみたい・・・結局私は子供を2度も捨ててしまった」
ヤンスンは大きくため息をついた。
日本についてすぐにお店を持たせてくれると思っていたが、今ある店で働かされ店を持たせてもらえなかった。
若く美しかった上に気配りと愛想のよさを兼ね備えていたヤンスンはみるみるうちに頭角を現しその店のトップになった。
それでも店を持たせてくれない男に愛想をつかし、もっと羽振りのいい男に乗り換えた。
それからのヤンスンは力のある男に乗り換えていき、その度に店を拡大していった。
そして店を何店舗も持つクラブのオーナーママにのし上がっていった。
「店の子達の紹介で日本で働きたいという子達が日本に来るんだけど、段々娘と近い年齢の子達が来るようになってきたのよね・・・若い頃は絶対のし上がってやる、って必死で生きてきたんだけど、歳を重ねて気持ちに余裕が出来てきた時にふと娘は元気で暮らしているのだろうか、と気になってきたの。18、9の子達を見てこんなに幼かったんだ、て。そんな幼い私は子を産みジェジュンに自分の子供じゃない子を押しつけて……育ててもらえると思った私は本当に愚かだった。きっと施設に預けてるわよね。当たり前よね。そんなの」
ヤンスンの目から涙がこぼれた。
「日本に逃げて一度も帰ってくることなかった。今回戻ってきた目的は娘を探しにきたの。腕のいい探偵を雇って探してもらう。お金に糸目はつけないわ。もし裕福な所へ養子に出されたのなら諦める。しかしもし悲惨な生活をしているのなら」
ヤンスンはワインを飲み干した後こう言った。
「娘を日本に連れていく。遅いけど娘に罪滅ぼしをしたいと思っている」